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【元BCGパートナー直伝】
10年後も勝ち残るDX成功の秘訣

ウェビナー報告

近年、デジタル技術の進化、顧客ニーズの多様化、環境問題への意識の高まりなどにより、これまで企業の成長を支えてきた大量生産の時代は終焉を迎えつつあります。

その中で今後、企業が持続的に成長・市場拡大するためには、ビジネスモデルの変革が求められます。しかし、具体的にどのようにビジネスモデルを変革すればよいかが明確になっている企業は多くありません。企業は時代の変化を的確に捉え、広くデジタル技術を活用し、戦略・業務プロセス・組織・制度を再編していく必要があります。

本ウェビナーでは、20年間日本企業のDXを第一線で牽引してきた元ボストンコンサルティング(以下BCG)パートナーの坂倉亘氏をお招きし、「10年後も勝ち残る」ことをテーマに、DX成功の秘訣についてお話ししていただきました。

自己紹介

<One Capital (ベンチャーキャピタル) 共同創業者・取締役COO 坂倉 亘氏>
2005年にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に参画し2013年にManaging Director &Partnerに就任。約20年間のキャリアを通じて、産業財、消費財、メディア、通信などの幅広い業界の企業に対して、オープンイノベーション、デジタル・トランスフォーメーション、新ビジネスモデル構築、全社的構造改革、ポートフォリオ再構築、営業改革などのプロジェクトを主導。2020年4月にOne Capital株式会社を創業、取締役COOに就任。翌年独立系VC1号ファンドとして最大の170億円にてファイナルクローズ。エン・ジャパン独立社外取締役。

DXの五つの柱

ではDXについてお話ししていきます。まず、当社では「五つの柱」としてDXを定義をしています。

①DXセットアップ
DXをしてどんな会社に生まれ変わりたいかを決める

②DXMO
DXの全社推進をチームでPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)をしていくためのインストールをする

③攻めのDX
顧客に対して新しい価値を定義し実現させること

④守りのDX
業務インフラやオペレーションの変革、基幹システムやセキュリティなど、社内システムを進化させる

⑤DXのための企業改革
③、④の実現のために企業改革を推進する

これら「五つの柱」でDXを推進するための支援をおこなっています。

なぜ10年がかりのDXが必要なのか?

本日は「10年後も勝ち残る」ことをテーマにお話ししていきます。なぜ10年がかりのDXが必要になるのでしょうか。

左のチャートをご覧ください。黄色は近年右肩下がりのマーケット、青色は近年大きく伸びているマーケットになり、黄色が「TAXI」、青色が「Uber Eats」になります。

次のチャート図では、スマートフォンがデジカメを代替している図となり、青が「デジカメ」、赤が「スマートフォン」になります。
このように、テック業界に起きていることは「ディスラプション(破壊的変化)」です。「一部の業界だけで起きていることで、自社のコア事業に影響はない」と多くの経営者が感じているようですが、必ずDXをしておかないと、中長期的に見てディスラプターに先を越されます。ですので、われわれとしては全ての産業でDXは必須だと考えています。

メディアやリテールではDXが進み、ディスラプターがマーケットを取っています。ですから、上図の黄色で示している自動車や運輸、ヘルスケア業界など、現在はディスラプターが出てきていない業界でも、今後はどんどん出てくる可能性があり、皆さんのコア事業がディスラプトされかねない状況がこの先必ず出てきます。そのため経営陣を巻き込んで、迅速にDXを推進していくことが重要です。

メディアではニューヨークタイムズの前CEOマーク・トンプソンが、次のように述べています。

「もし20年後も紙で印刷されているとすれば、とても驚くべきことだ」

私はこれを経営者の重要なマインドセットだと感じています。自社のコア事業は必ずディスラプトされるという定義を出発点として置くことが重要です。自社のレガシー事業を自分たちでディスラプトすること(セルフディスラプト)が、経営として一番重要なことですし、これからは投資家たちも、セルフディスラプトができるかを事業の成長性として見てくるでしょう。

セルフディスラプトをする上で既存事業の変革をするのか、新規事業を立ち上げるのか。

多くの経営者がコア事業はのちに廃れていくことを想定して、今のうちに新規事業を立ち上げることを議論されているのではないでしょうか。既存事業をどう伸ばしていくか、新規事業をどのように立てていくか、この問いの立て方自体がデジタルの時代になり、変わってきていると感じています。既存か新規か、自社の視点で分けて運営をしていく時代は終わりつつあります。

DXで考えなければならないのは、顧客価値のイノベーションです。顧客価値のイノベーションは、それ自体が自社の成長とエンジンになります。お客様の生活をより豊かにしたり、企業の収益を向上したりするなどといった企業のミッションを実現するために、自社のビジネスをどう価値につなげるかが軸だと考えています。

自社の区分けで既存事業や新規事業ではなく、DXを推進するうえで必要なのは「顧客視点」に、あらためて立ち戻ることが何よりも重要なアイデンティティになります。

近年はパーパス経営とも言われ、さまざまな企業でパーパスが立案されています。われわれの支援先でもパーパスがありますが、パーパスを実現するには顧客の成功が必要だと思っています。多くの企業では、顧客の成功の定義が曖昧です。しかし、顧客の成功が定義できない限り、パーパスの実現はない、と考えています。ですので、パーパスを実現するということは、顧客がどのように成功すればパーパスを実現できたことになるのか、ということです。解像度の高いカスタマーサクセスを事業として定義することが、パーパス経営において重要になります。

その顧客のサクセスを定義するのは、10年後の顧客です。

顧客の現在のニーズに応えるのではなく、10年後に顧客価値をどのようにイノベーションするのか、ディスラプターに勝つための重要な時間軸の考え方で、現在の顧客ニーズに応えることは顧客満足度を高めるだけになります。ですので自社のビジネスを使い、10年後の顧客のサクセスをどのように定義するのか、そこに向けてどのようにイノベーションを起こすのか。それがDXにおいては重要であり、それができる企業はディスラプターに勝てるでしょう。

その際に一番重要なのが、先ほどお話しした柱の一つ「③攻めのDX」となります。

「攻めのDX」を単体で推進してもうまくいきません。先ほどお伝えした柱の全てをホリスティックに進めることが大切だと私は考えています。今日はその中でも「③攻めのDX」にどのように取り組めば良いのか、掘り下げてお話ししたいと思います。

こちらに取り組むことによって、10年後の顧客価値を生み出すことができるようになります。ポイントを大きく分けると次の三つになります。

A:攻めのDXとして顧客価値の作り方を定義する

B:コアを内製化、周辺をパートナリングし価値をつくっていく

C:アクハイアリングを進める
※タレントやケイパビリティをハイアリングするためのM&A

この三つは、どの企業、どの産業でも取り組まなければならないことだと私は考えています。

はじめに「A:攻めのDXとして顧客価値の作り方を定義する」について、フレームワークを使ってお話ししたいと思います。

図の縦軸「UNPREDICTABILTY」は、事業環境が予測困難かどうか。顧客に提供する事業環境が予測のできるものは下、できないものは上です。例えば顧客がどのようなニーズをもっているのか、2、3年後の状況が読めないものは上に該当します。

次に横軸「MALLEABILITY」は、環境を自らが改変、創造できるか。新しい環境を自社で創造できるかどうかが横軸になります。

奥行きの軸「HARSHNESS」については本日は割愛させていただきますが、この縦と横の二軸を考えたときに、どのような環境のビジネスで顧客価値を作るのか、まず定義をすることが重要です。

攻めのDXをおこなう上で何をすれば勝てるのか。これは環境の定義によって変わってくると考えています。アドバイザリー支援の中で、これらのアプローチにデジタルを使った新しい方法を取り入れ、定義をして進めています。この定義がブレなければ成功すると思っています。

事業環境の予測について少し詳しくお話しします。

図の左上「ADAPTIVE(適応力)」の事業設定についてご説明します。

ここに当てはまった企業の場合、「顧客の予測ができず自社で環境を変えられない」という定義のもと、他社よりも低コストで迅速に実験を繰り返す力が、顧客価値を提供し続け、ディスラプターに勝つためには重要なポイントになります。

このスピードがビジネスにどのような効果があるのか。デジタルの世界で「MVP(Minimum Viable Product)」は、顧客に最低限の価値を提供するプロダクトになります。構築、計測、学習を超高速で繰り返し、高速MVPの猛者を目指します。顧客の変化が分からなければ、スピーディーに動くという考え方になり、このモデルの成功事例が「Google」やインドネシアのライドシェアと物流に注力している「Gojek」という企業のビジネスになります。

次に右下「VISIONARY(独力)」です。

こちらは「新たな環境を予測し、自ら新しい環境を創造する」というアプローチの手法で、ルール自体を自ら立てにいく戦略の考え方です。こちらはスピードよりも全く新しい市場のコンセプトを作りローンチさせるビジネスで、「任天堂」や「Netflix」が成功事例となります。

次は右上の「SHAPING(協働)」についてご説明します。

こちらは「予測ができず新しい価値を創造しなければ顧客価値が提供できない」ビジネスとなります。いわゆるプラットフォームビジネスが該当しますが、この場合はパートナー企業と一緒に迅速な変化を繰り返していくことが大切です。一例として「Uber Eats」を挙げますが「来年、東京で流行る食べ物は何か?」ということを「Uber Eats」は予測ができません。流行をしかけることはパートナーの飲食店に任せ、自社はパートナー飲食やユーザーとのインターフェース、配送パートナーとの契約やオペレーション整備などの裏方に徹し、迅速に対応できるビジネスモデルを作っておくことが重要です。

顧客価値を作ることは他社に任せ、先の読めない顧客価値に迅速に対応することが重要なポイントです。

「ADAPTIVE」、「VISIONARY」、「SHAPING」この三つの中のどの戦略でいくのか、顧客価値をイノベーションするうえで決めておく必要があります。ここをしっかり定義できれば、経営陣間でも軸がブレなくなり、推進や投資がスムーズになると考えています。

次は「B:コアを内製化、周辺をパートナリング」についてお話しします。

図の「Salesforce」の例では、中心のセールスクラウドのプロダクトがコアになります。周辺はさまざまな他社のアプリケーションとの連携や出資をしたパートナリングが並んでいます。全ての顧客価値は自社だけで実現せず、コアな部分だけは内製化し、周辺はパートナリングで良いと私は考えています。なぜ内製化が必要なのか、理由は二つあります。

一つは、顧客やビジネスパートナーからのフィードバックを迅速に反映できるのは、内製化された企業だからです。内製化をしていないと、フィードバックから反映までに時間を要してしまい、時間のロスが発生してしまいます。

二つ目は、ベンダーに依頼を続けると費用がかさむからです。コアプロダクトのコスト競争力は、デジタルの時代にも重要ですので、高くても価値が出せれば良いということではありません。ベンダーに発注し続けるモデルだとコスト競争力はつかないですし、対応が遅くなりますのでディスラプターに負けてしまいます。

では、内製化をどのようにスタートさせるとよいでしょうか。
必要な人材を社内で確保できるのが一番ですが、いない場合は外部からスタートアップ経験者やSIerから採用します。
図で典型的な役割をもつ5人を例に上げてています。
「プロダクトマネージャー」はプロダクトのKPIを追う責任者、「スクラムマスター」は顧客からのフィードバックを開発に反映させる責任者、エンジニア、デザイナー、ライターを揃えてスタートさせます。体制を整えておかないと、攻めのDXのコアチームになりません。

最後に「C:アクハイアリングを進める」についてです。こちらは聞き慣れない方も多いかもしれません。これは、大きな企業を買収するのではなく、DXの能力やAI、自社のケイパビリティを高めるために、小さい会社をスモール買収することと考えてください。

再びSalesforceを例に挙げ、AIのプロダクト「Salesforce Einstein」をどのように成長させてきたかをご紹介します。
このプロダクトは、アクハイアリング、つまり「能力の獲得」という形で、買収を重ねてつくられてきました。多くの場合、大企業ではなく、5〜10人程度の企業を買収する形で成長をさせています。

日本企業の特性として、IT系は外注する文化が根付いているため、会社の中でIT・デジタルを理解している人材が育っていないことが多く発生しています。チームごと人材を獲得してそのチームに任せていかないと、世の中のスピードに追い付きません。10年後にディスラプターに負けない開発をするのであれば、アクハイアリングはとても重要な取り組みです。

日米で大きく異なることは、ベンチャーのイグジットのさせ方です。アメリカでは大企業や事業会社へのM&Aでイグジットさせることが多いのですが、日本では大企業イグジットはほとんど進んでいません。8割程度の経営者はIPO(Initial Public Offering)を目指しているのが日本のマーケットの特徴です。これではスタートアップのマーケットも拡大が難しく、大企業の変革も加速できません。大企業とスタートアップのマッチングで大企業が買収をして自社の能力を高め、攻めのDXを実現していくということはこの先必ずトレンドになっていくと思います。今のうちから取り組みを始めれば、他社がアクハイアリングの重要性には十二分に気付いていない企業も多々ありますから、取り組む際にはできるだけスピーディーに競合よりも早く良いスタートアップを見つけてアクハイアリングをすることが、攻めのDXの競争要因として大きなものになってくると思います。

本日は経営者の方や経営企画室の方向けに少し難易度の高いお話をさせていただきましたが、攻めのDXではこのA、B、Cの取り組みを自社のイニシアチブと照らし合わせて、再度定義を見直していただければと思います。

参加者の皆さまからの質問

<ユナイテッド株式会社 執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

米田吉宏(以下、米田):坂倉さん、プレゼンありがとうございました。私自身も為になるお話ばかりでした。
早速ですが質問に移りたいと思います。

ー「定義」について方針はあるものの、成長戦略の位置付けはどうすべきか、アドバイスいただきたいです

米田:こちらの質問は私、米田からお話しさせていただきます。DX自体が戦略そのものだと、坂倉さんのプレゼンの中にもありましたが、将来を見据えて「顧客価値」をどのように設定するかが成長戦略だと思います。実現するための手段としてどのようなシステムやデジタル技術を構築するか、ロードマップをつくり、実行するのがDXです。本来は成長戦略を別物として整理してはいけないのですが、このご質問の背景はCEOとは別のDX担当役員が成長戦略を切り離して設置しているのではないかと推測しています。

坂倉さんはどのようにお考えでしょうか。

坂倉:絶対にしてはいけないことは、DX推進部をつくり任せっきりにしてしまうことです。必ずCEOやCFOがコミットをすることが重要です。コミットとは、お金、人、意思決定についてです。人は、社内外問わず、エースを確保して配置をする。こちらができていない企業が多いです。お金は投資枠を確保して、困難に陥ってもDX予算を倍増して付ける。意思決定については、蓋然性を求めすぎてもいけませんし、甘いプランにしすぎても小さなDXの実行で終わってしまいます。この適度なバランスが非常に難しいのですが、自社の必要なフェーズに応じて実行するのが、経営者の腕の見せ所になるかと思います。こちらは最優先事項として位置付けをしないと、ディスラプターに勝てるようなDXはできません。

多くの企業で課題が明確にあるほうが、DXをしなければならないというモメンタムがあります。課題を直視することで必然的に優先度も高くなり、人、金、意思決定が変わってきます。ですので、この課題を経営陣間できちんと噛みしめておくことが、DXを推進するマインドの面でも非常に重要な出発点になってくるのではないでしょうか。

米田:ありがとうございます。付随したご質問もきておりますので、私から補足したいと思います。

ー従業員100~500人規模の会社ではどのようにDX推進をしていけば良いでしょうか

米田:私がご支援する中で感じているのは、DXの話をしていても、先を見据えた戦略ができていないところが多いという点です。ですので、先ほど坂倉さんのお話にもあった、人、お金、意思決定を、将来を見据えてどのように分担し、実行していくのか、プラン作りを明確にする必要があると思います。

では、次の質問です。

ー製造業・小売業の中小企業に対して、どのようにDXの余地を探していけば良いでしょうか

坂倉:資金余力やブランド力のある会社のほうが、やりやすい面はあります。従業員数や企業規模に関係なく、基本的にはやり方は一緒で、ディスラプションの話は大企業と変わりません。困るポイントは「人」だと思います。ほしい人材が採用できない、自分の会社には来てもらえないだろう、社内でDXを推進できる人材がいない、という悩みを抱える会社は非常に多いです。それには2つの解決法があります。

一つ目は、同業界でいかに顧客価値にイノベーションを起こしにいくかを真面目に定義すること。それを外で語り、そのビジョンについてきてもらうこと。

二つ目は「お金」です。極端に言ってしまえば、社長よりも高い給与を払っても良いと私は考えています。高い給与でDXを推進するリーダーのプロを雇い、ビジョンを共有してその方にイノベーションを起こしてもらう、そのくらいの覚悟が必要です。その一人を採用できるだけで大きく違ってくると思います。

ー顧客価値を最大化するために、コアな部分は内製化したほうが良いというお話しでしたが、コアと定義する条件について教えてください

坂倉:私が考えるコアとは自社の「強み」です。顧客資産の強みか、テクノロジー(技術)の強みのどちらかで、これがないとコアに据えても失敗をしてしまいます。この強みは既存事業からしか生まれませんので、これをベースとして新しい顧客価値をつくります。この新しい顧客価値を新規事業と呼んでも良いですし、既存事業の延長と捉えてもどちらでも構いません。このコアな部分は唯一、自社だけが世の中のどの企業よりも勝っていなくても良いので、顧客資産か技術で自信があるものをコアの条件に据えて良いと考えています。

米田:ありがとうございます。本日は以上となります。坂倉さん、貴重なお話をありがとうございました。