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テック祭典 CES2022 世界最多の3部門を受賞!
フェアリーデバイセズと考える現場を変えるDX

ウェビナー報告

2022年1月、アメリカのラスベガスにおいて世界最大規模のテックトレードショーである「CES 2022」が開催され、「テックの祭典」において日本からFairy Devices株式会社が 「Innovation Award」で世界最多の3部門を受賞しました。

本ウェビナーでは世界中から評価された技術開発力を持つFairy Devices株式会社から代表取締役 CEO / CTO 藤野 真人氏をお招きし、テクノロジーで現場と繋がる「DXの未来」についてお話ししていただきました。日本企業がDXを推進するうえで、世界のスタンダードと比べて欠けている点や、変革を推進するためのマインドや技術の使い方について徹底解説していただきました。

会社紹介

<Fairy Devices株式会社 代表取締役 CEO / CTO 藤野 真人氏>
2005年、東京大学農学部生物情報工学研究室卒。在学中に大学発創薬ベンチャーRNAi(ゲノム創薬)を創業メンバーとして立ち上げ。同大学院医学系研究科医科学専攻に進学する傍ら、代表取締役に就任、大手製薬企業にExit。
大学院での実習・研究の課程で「ヒトの心に寄り添うモノの温かさ」に気付いたことで、「ヒトと機械が繋がる世界を創る」ことを決意。 MIT Learning &Memory Centerを経て、大学院を退学し「使う人の心を温かくする技術開発」をミッションとするFairy Devices株式会社を設立し代表取締役に就任。

Fairy Devices株式会社は2007年に東京大学発、研究開発型の中小企業としてスタートし、設立15年目となります。立上げから10年ほどは大手メーカーや研究所などと音声認識や機械開発の受託開発や共同研究などをしてきました。ベンチャー企業というよりも、技術を高める職人集団のような会社でした。数年前にこれまで蓄積してきた技術基盤をもとに自社製品の開発を進め、ハードウェア開発に着手しました。ハードウェアに着手した時期を第二創業期と位置づけています。
小話ですが、第一創業期のストーリーが演劇の舞台にもなり、私自身も本人役として出演いたしました。日経クロステックでも取り上げていただきました。

テクノロジーで現場と繋がる「DXの未来」

現在スマートデバイスを持ち現場作業を行う人たちは、世界で約3,900万人いると言われています。これが2030年までには5億人に増加すると推定され、現在の約10倍にもなると予測されています。スマートデバイスが世界的に普及してきていることが背景のひとつではありますが、世界的に人口が減少傾向、高齢化にあり、労働人口の減少という問題もあります。特に日本では毎年約50万人ずつ減少しており、産業の現場では高スキルの人材不足、暗黙知消失のリスクが年々大きな課題となっています。

世界人口は100億人を目指して伸びていきますが、市場に対し熟練工の不足により成長機会を損失しているとも言えます。このような背景から、世界中の現場をつなぐ「コネクテッドワーカーソリューション」として事業を立ち上げました。

具体的には現場のワーカーが、われわれのウェアラブルデバイス「THINKLET」を装着して、センターから遠隔支援を受け、遠隔支援先では動画と音声データがセンター側に蓄積されていきます。この現場作業の動画は非常に価値の高いものになり、この動画を使って熟練者と新人の作業を比較することで、熟練者の持つ暗黙知を抽出し、それを形式知としてAIに学習させることができます。この学習したAIを熟練工AIと呼び、現場の遠隔支援サービスをより高度化することができます。例えば作業手順を音声でガイドしたり、画像認識によって作業状況を判定したりすることができます。このループを回し続けることで、現場のデータを自然に集め、知恵と経験のデータをシェアすることができます。現場の動画データはAIの学習データとして活用できるだけでなく、新人の教育動画や研修としても活用できます。

ハードウェア「THINKLET」は、いわば「画面のないスマートフォン」です。首回りにフィットできるようデザイン面はかなりこだわり、電子ファイルは全て自社設計しました。われわれの規模の会社がスマートフォンレベルの複雑なハードウェアをゼロから開発できるのです。これは世界的な技術的な潮流の変化ですね。

<ハードウェアTHINKLET®️>

「THINKLET」を活用する「コネクテッドワーカーソリューション」の仕組みは、ダイキン工業やヤーマンをはじめ、多くの企業で取り入れていただいています。比較的大規模なシステムになりますが、誰でも簡単に利用することができるよう複雑な機能は取り除きシンプル化した製品を、個人や中小企業向けのウェブサービス「LINKLET」として提供もしています。これが「CES 2022」に出展したサービスです。

「LINKLET」は、型掛けウェアラブルデバイス「THINKLET」の先端にあるカメラから、自分が見ている視点や音声をzoomやTeamsを使い、遠隔地からでも共有ができるシステムです。4Kの超広角カメラを使いながら、リアルタイムでコミュニケーションを取ることができます。保守点検や製造などさまざまなビジネスの現場や教育などの研修、また習い事や観光など幅広く利用されています。デバイスは遠隔操作が可能ですので、装着者の操作を必要としないのがメリットです。またZoomやTeamsの映像は遠隔支援用途だと、高い画質を求められることもあります。ZoomやTeamsが難しい場合は、デバイスの4Kカメラから写真を撮影し、いつでも見ることができます。

「CES2022」での反響と、注目すべき最先端技術 / 製品レポート

続いて世界最大規模のテックトレードショー「CES 2022」についてお話します。メディア向けの前夜祭、本番の展示、ショーストッパーズという三つに出展し、無人になることがないほどの盛況ぶりでした。CES期間中は実際に私が「THINKLET」を使って、装着者視点の動画をYouTubeに生配信をし、カジノへ出向いたり、ラスベガスの街を散歩したりしました。1日中身に着けることで、開発者として改善点も見えてきました。

CESには革新的な製品を表彰する「Innovation Award」があります。この賞はエンジニア憧れの賞ともいえますが、「Wearable Technologies」、「Streaming」、「Digital Imaging / Photography」の3部門を同時受賞という高い評価をいただきました。今年3部門の受賞は世界で7社、日本ではFairy Devicesが唯一の受賞となりました。

<LINKLET、CES 2022 Innovation Awardsを3部門で同時受賞>

受賞した理由については、次の三つが評価につながったと考えています。

①初めての現場でも使いやすいウェアラブル
実際にさまざまなウェアラブルを使ってきたお客様から、THINKLETは非常に使いやすいという声を多くいただいております。

②ZoomやTeams連携クラウドシステム
今回ZoomとTeamsにつながる独自のシステムを作りました。装着者はハンズフリー、支援者側は完全に遠隔制御をすることができますので、ITに詳しくない人でもすぐに使うことができます。

③垂直型の統合システム
THINKLETはハード、クラウド、アプリ、AIまでを統合するシステムです。われわれはAIに関するソフトウェア企業ですので、この機能を最大限役立てるためにハードウェアから独自に開発ができることが強みになっていると思います。

CESは国際的なイベントですので、世界各国のニュースなどでわれわれの製品を取り上げていただきました。このようにひとつのイベントに出展するだけで、世界中にPRをすることができるのもCESのメリットだと思います。同時に自社ホームページにも大きな流入がありました。CES開催後はユニークユーザー数で約30倍も増加し、イベントから1カ月以上経った今でも増加は続いていて、受賞のすごさを実感しています。

現場を変えるDX

ここからはPoCを進める上で得た知見についてご紹介します。

まず「業務フローDX」の全体像ですが、最初に「現地調査 / 現場のヒアリング」を行います。次に「対象スコープを決定」しますが、こちらでは可能なコストの範囲内になるので、広げすぎないことが重要です。次に「業務の可視化」を行います。PoCにおいて重要な観点は、測定可能な結果が得られることです。最初に何を改善したいのか、測定可能な対象で決定します。次にそれらに対する「仮説を設定」し、それをどのように評価をするか、どのように効果を算定するかを決定します。

例えば、サービスマンの移動時間の削減をしたいと仮定します。仮説として、サービスマンがTHINKLETを使い、リモートで現地を確認することができれば移動時間を削減できるのではないかと設定します。評価方法として、何も使わない現状と、仮説通りシステムを利用した時と移動時間がどのくらい削減できたかを計ります。最終的な効果算定方法として、削減できた移動時間や現場に行った回数など、定量的な結果を算定することができます。

実際に実行する範囲は小規模でも結果が定量的に得られていれば、PoCで得られた結果を全社に展開したときにどの程度の経営効果が得られるのかは、比例計算で推定することができます。

それぞれについてもう少し具体的にお話しましょう。

まずPoCにおける「現地調査 / 現場のヒアリング」ですが、現場でウェアラブルデバイスを使う際は、次の五つの観点が必要です。

①通信環境
当たり前のことですが、未だ携帯電波の届かない場所は多々あります。機械室のある場所が電波が届かないということもありますし、屋外であっても大規模なコンビナートなどの場合も同様に一般の電波が届いていないこともあります。工場内もWi-Fiが未整備の場所も多い状況ですので、リアルタイムPoC支援を行いたい場合は、通信環境や通信速度は事前に確認をしておく必要があります。

②映像品質
現場で映像を見たいときに、どの程度細かい映像が見られるのかを確認しておく必要があります。例えば電子基板の文字を読みたい場合、高い解像度が求められます。

③作業環境
高温の場所などは過酷な作業状況となりますので、事前チェックが必要です。

④セキュリティ
インターネットをつないだ後、社内ネットワークのみに制御をする場合に、使用するデバイスがきちんと対応するのかについても確認が必要です。セキュリティポリシーに引っかかってしまうとこちらの対応に1カ月程度かかる場合もありますので、早い段階で確認をすることが必要です。

⑤業務環境
昨今はコロナ禍ですので、現地でPoCをする時に人の出入りに制限がある場合があります。オペレーションが構築できるのか、重要な観点となります。

続いて「業務フロー」を可視化します。フローのAs-Is / To-Be像を可視化して具体的なフローチャートに落とし込むことが必要です。こちらの作業はかなり細かい業務まで落とし込むため労力が必要になってきますが、まずはAs-Isを明確にすることが重要だと考えています。これをどのように改善できると良いのか、To-Beに落とし込みフローチャートに落とし込んでいきます。

そして業務フロー中の各シーンをスケッチしていきます。これは改革後の業務を具体化して共通認識をとるためにイラスト化します。この共通認識を持つフェーズが非常に重要で、PoCに巻き込む仲間を増やしていくためや決裁の意思決定にも活用できます。これを実行することで、決裁までのスピードを早めることができ、導入の抵抗感を抑えられていると実感しています。

最後に私たちが考えている現場DXにおける技術が、社会の中でどのように普及や変化をしていくのか、示唆をご紹介します。世界のテクノロジーの変化予測とともに、大きく三つの時期、現在、中期(2022年〜2025年)、長期(2025年以降)に分け、ウェアラブルデバイスを使う観点からお話しします。

現在国内では5Gの普及が始まっていて、ハイエンドな5G機材もいくつか登場しています。コネクテッドワーカーでは音声認識を行うことで、騒音があっても正確な音声認識が可能で、単語の抽出も現実的になってきました。LTE対応では、海外製品も出てきていて、THINKLET、LINKLETも海外での利用が可能です。また防爆ウェアラブルデバイス機材も出てきていて、スマートフォンやBluetoothとの外部連携もでき、簡易的な3Dデータの生成も可能になってきました。

現在の状況から2025年までには、回線が太くなることによって画質は4Kの動画になっていく。ここが一番大きな変化だと思います。5G機材についても製品の普及でコストが下がってくると予測されます。また騒音の中での音声認識も精度が上がり、話し言葉を文字に起こせたり、文字翻訳が可能になったりと、技術現場で活用できるレベルになっていくだろうと予想されます。機器連携ではレーザースキャンのような機器を使わなくてもウェアラブルカメラで直接環境にあるバーコードを読み取るというような、ハンズフリーが可能になっていくでしょう。

このような技術発展を経て、2025年以降には5Gが全世界的に普及し、国内外関係なく使える環境になってくると思います。動画も4Kから8Kになっていくと考えられ、人間の視覚の解像度と同等になり遠隔で見えないものは、ほとんどなくなるのではないでしょうか。このくらいになればほぼ完璧で、できないことがないというレベルになっていくはずです。翻訳についても現在は話した後に翻訳されますが、これが人間の同時通訳のような早さにシステムが追いつき、一般化していくでしょう。動画の視野に関しても自分が見ている範囲だけでなく、180度から360度の範囲までウェアラブルデバイスから8Kで見ることができるようになり、遠隔側でも周辺情報を3Dで体験しながら支援を提供でき、その一部をAIに代替されるというような未来が2025年以降には発生していくだろうと考えています。

このような背景が冒頭にお話したコネクテッドワーカーの数が5億人という非常に大きな数になっていく技術的な背景でもあり、まさにこの分野が今急速に立ち上がろうとしている時期なのだと考えています。

参加者の皆さまからの質問

<ユナイテッド株式会社 UNITED STRATEGY Lead 松田 和也氏>
DNVにてエネルギー領域の技術・リスクのコンサルティングに従事後、INPEX(旧国際石油開発帝石)にてグローバルのHSEマネジメントシステム構築・運用に従事。アクセンチュアにて素材・エネルギー分野を中心に多業種の新規事業戦略策定・DX戦略策定・新規事業創出・JV立ち上げ等に取り組む。2021年より当社Strategy lead。

松田:興味深いお話ありがとうございました。ここからはインタビュー形式で進めていきます。はじめに、私から質問させていただきます。

CESの話題から。藤野さんはCESでさまざまな技術をご覧になったと思いますが、興味深い技術やプロダクトがあれば教えてください。

藤野:たくさんありましたので、一つ挙げるとすると「動くパソコンのディスプレイスタンド」です。パソコンで作業をしていると姿勢が悪くなりがちなのですが、これをディスプレイが検知して姿勢を正す位置に動いてくれます。人間が知覚できないほどゆっくりしたスピードで動き、常に姿勢を正すことができます。こちらはアイディアも面白いのですが、人間が気付かないスピードで特性をハッキングし、気付かないうちに助けられてる点が非常に面白いと感じました。

松田:面白いですね。THINKLET、LINKLETと同様に技術やプロダクトを付けているということを認知せず、自然に技術を活用できることは、生活や仕事に溶け込んでいるということなのかと感じました。それでは参加者の方からのご質問に移ります。

国の技術を形式化、数値化することが可能と伺いました。得られたデータをAIで分析してどのようなことが実現できるようになるのでしょうか。具体例を教えてください。

藤野:熟練工の作業と新人の作業を比較すると、前者の方が明らかに早いことがあります。それはなぜ早いのかを尋ねても、経験を重ねてきたという返答が多いでしょう。しかし実際に複数の工具を使用する場面を見ると、使用ツールをいつ持ち出していつ使ったか、また、工具の使い方や使う時間に圧倒的な差があります。ベテランの方は当たり前だと皆さん言いますが、新人にとっては勉強になります。形式化し学習教材にしても良いのですが、AIに学習させることで、現地での音声によるアドバイスができるようになると思います。

松田:ありがとうございます。次の質問に移ります。

装着している熟練工のメリットを教えてください。

藤野:熟練工は遠隔支援の必要性がありませんので、新人教育のためにデータを提供してもらいます。ですのでデータ提供数や提供されたデータの評価に応じてピアボーナスのような形でインセンティブ設定をすることがあります。こちらはPoCで実施していますが、ゆくゆくは業務支援AIとして役立てた収入の一部を、提供してくれた方に還元できるような仕組みを導入できたらと考えています。

松田:データや知見を提供する代りに対価を払うということですね。過酷な現場にわざわざ遠方から出向くための人数や頻度を抑えるためにデータを上手く活用することがメリットになると、お話を聞いていて感じました。

藤野:おっしゃる通りです。特に交通の便が悪い地域では片道数時間かけて行くこともあります。そのような場所に行かなくても済むことは大きな経営効果につながると思います。

松田:ありがとうございます。次の質問に移ります。

AIが熟練者の能力を超える可能性はありますか?

藤野:不正確な回答になってしまうかもしれませんが、蓄積されたデータが増えていった場合、熟練者の傾向や癖はデータ量があれば見えてくると思います。違う分野の事例にはなりますが、何もトレーニングしていないたくさんの画像データの中から、Googleは「猫」という概念を発見したという事例がありました。ツールの持ち方、使い方、動きや姿勢など、さまざまな観点がありますが、動画データがたくさん集まることによって、そこから何らかの熟練を超えた新しい知見が出てくることはゼロではないと思っています。しかしそのためにはたくさんのデータが必要になりますので、実現時期はもっと先になってくると考えています。

松田:ありがとうございます。最後の質問です。

現場を変えるDXを実現するために、変革におけるハードルと乗り越え方について教えてください。

藤野:一番のハードルは経営側が意識をしないと全く動かないことです。ボトムアップではなかなか成功しづらいですので、トップが認識をして決裁することが重要になります。しかし、これができているトップはまだまだ少ないと思いますので、ここが一番のハードルだと感じています。トップダウンの決断がされたうえで実行になる場合には、プレゼンテーション中でお話ししたPoCを進めていくための五つの観点が必要になってきます。To-Beとして描ける範囲には限界がありますから、自分たちが持っている武器を組み合わせて実現できるところを最大の目標とします。いかにクイックにミニマムに小規模でも実現可能か、その観点が必要ではないでしょうか。そうすれば比例計算で経営予測ができますので、これができただけでも十分だと実感しています。

松田:ありがとうございます。ユーザビリティの高いプロダクトを多くの企業様と導入されてきたご経験から、非常に有効で現実的な知見を共有いただきました。本日はありがとうございました。