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元Googleシリコンバレーキャピタリストと 中国のアクセラレーター代表が語る
アメリカ・中国から学ぶ “最先端のDX”

ウェビナー報告

新型コロナウイルスの蔓延によって加速したデジタルトランスフォーメーション(DX)。日本では緊急事態宣言が繰り返され、終わりの見えない「自粛」を強いられています。一方で海外に目を向けると、コロナ禍においても力強く成長を続ける国があります。アメリカのシリコンバレーでは日々勢いのあるスタートアップが登場し続けており、中国ではアリババやテンセント等を中核として、デジタルを武器に目覚ましい成長を遂げる企業が多くあります。
今回は2020年10月に大好評だったウェビナーをリメイクし、アメリカ・中国から学ぶ “最先端のDX”についてウェビナーを開催しました。

シリコンバレーのトレンドから学ぶDXのエッセンス

<Incubate Fund US GP, L.L.C. Founder and General Partner 野津 一樹氏>
2004年京都大学卒業後、電通入社、30カ国以上のマーケティング、ビジネス開発に従事した後、BCGにて消費財、ヘルスケア、金融、産業材、人材など多岐にわたる業界の企業戦略、マーケティンング戦略、新規事業開発等のコンサルティングに従事。その後、Google JapanにてSMB Marketing ManagerとしてGoogleのB2Bマーケティングのスキームを日本から開発、Globalに展開、併せてDMA Echo Gold Awards, Google Platinum VP Awardsなどの数々の賞を受賞。Head of Marketing InnovationとしてOne Googleでのスタートアップの支援スキームなどを開発、Google本社に転籍。Google在籍中も社内スタートアップの推進、スタートアップへのエンジェル投資、アドバイザリーを行う。2019年にIncubate Fund USを設立、ジェネラルパートナー就任。

野津 一樹(以下、野津):本日は前回から2回目ということで、具体的にどうしたら良いかという示唆を出せたらと思い「資金調達トレンド」、「イノベーションに取り組むための具体的アクション」について、実例を踏まえながらお話しします。

USの資金調達トレンド

2021年上半期のトレンドになりますが、2年前の1年分の水準となっていて、かなり盛り上がっています。私が投資をしているBtoB SaaSの領域は、時価総額が6年で10倍もの市場になっています。また未上場でも今年だけで161件ものUnicornが誕生しており、年300件ペースで増えています。皆様当たり前に思うかもしれませんが、10年前は2,3件ですので、10年で100倍のペースでユニコーンが誕生しているのは、もの凄い状況です。そうしたスタートアップの中でもSaaSに関しては規模が大きくなっても成長はむしろ加速していて、売り上げが大きいほど成長率も高いという、ある種異常な現象が発生しています。日本企業の皆様からすると想像が難しいかもしれないのですが、市場で勝てばプラットフォームとなり、売り上げがどんどん伸びているという状況です。実際どのようなところが盛り上がっているのか、大きく4つに分けてご紹介したいと思います。

まず一つ目ですが、Vertical SaaSで今回のテーマにある「産業のDX」です。今回、新型コロナウイルスの影響で一気に投資が伸びたのですが、どの業界もテックを使わないと勝ち残れないと実例で示されたところがありました。飲食店の「Toast」は倒産するという噂もあったほどですが、POSの導入で席に居ながらオーダーや会計までができるSaaSで一気に伸び、一兆円以上の時価総額となっています。こちらに記載している、サロン、フィットネス、弁護士、保険、金融、警察署、消防署は一見マーケットは小さく見えるかもしれないのですが、産業系のDXをサポートするようなSaaSが全てユニコーン級に伸びています。実はユニコーンになっているのはほとんどが裏側をサポートするようなスタートアップです。特にデータが重要といわれる中で、いかにデータマネジメントをしっかり行うかが重要となり、この領域は大変盛り上がりを見せています。データ量はこの10年間で44倍もの量になり、セキュリティリスクもその分高くなっているのですが、こちらの領域でも今年だけで1.3兆円もの投資がされ、大きく伸びている領域となります。このように資金調達環境が良い状況の時には、バッドエコノミクスのスタートアップにチャンスがあると言われています。それを反映するかのように、これまでポテンシャルがありながらも、なかなかチャレンジができなかったビジネスが今、躍進してきています。事例としてはデリバリーの領域で、通常2時間程度かかるといわれている配達を「GoPuff」、「Gollras」は15分程度で行っており、配達型のコンビニと言われています。「Gollras」は創業2年以内にユニコーン化した企業になります。

二つ目はブロックチェーンの領域です。大成功を収めた企業はまだありませんが、「DAO」はブロックチェーンをうまく使ったコミュニティ運営をしている注目企業となります。

三つ目は環境系のスタートアップです。EV(電気自動車)関連がユニコーン化しています。水面下では気候関連の多くのスタートアップが出てきていて、期待値の高い領域となっています。

最後四つ目は、アメリカのあらゆる企業はイノベーションに取り組むのが当然という考えがあります。その考えのもと、コアな領域に集中しようとする企業が増えています。以前はAPIやMiddlewareはスタートアップが使うものとされていましたが、最近ではエンタープライズ企業でもよく使われるようになり市場規模が大きくなりつつあります。例えばクレジットカードを発行できる「Marqeta」やコンプライアンスを準拠させるためのAPI「Vanta」がその事例となります。

APIについて再度ご説明すると、プラットフォーム系の「twilio」や「Okta」「stripe」は引き続き大きくなっています。一方で現在トップVCが注目をしているのは、APIでも使い易いサービス寄りのものがトレンドになっており、例えばレンディングが可能なバンキングサービスの「bond」などが伸びている状況です。

日本企業がDX化を進めるうえでこれらを参考に、特にチャレンジング的なビジネスというところでは、Amazonのように長年黒字化に苦しんでいた企業がのちに大きく成長していることもありますので、辛抱強くビジネスを見ていく必要があります。

イノベーションを取り組むための具体的アクション

次は皆さんがアメリカのイノベーションを取り入れるためにどのようなことをしていくべきか、具体例を4つお話ししたいと思います。

一つ目はスタートアップ企業と協業することを積極的に取り入れることです。事例としてアメリカの自動車メーカーが自社でSaaSを開発していましたが、世界一になるために、自社プロダクトと工場プロセスの改善SaaSを提供しているスタートアップと競争させました。結果的にスタートアップ企業側が勝ったのですが、それでも自動車メーカー側は世界でより良いクオリティの工場プロセスの改善ができることに価値がある、と言っていました。ですので、自前主義の観点はぜひ捨てる考えを持っていただきたいです。

次に保険や金融のアプリをノーコードで開発できる「Unquok」ですが、実はゴールドマン・サックスがファーストカスタマーとなり、出資を受けアップサイドも取り人員までも確保しました。この事例は非常に賢い手法になります。ですので期待値の高いスタートアップは、まずゴールドマン・サックスに相談しにいくというレピュテーションができているとのことで、協業だけでなく投資も両輪で連携していくことが重要となってきます。「Walmart」も協業後、17社を買収しその後は評判も良いです。

投資に至る場合は、買収後どのようにPMIをしてスタートアップを伸ばしていくのか、ここをしっかりノウハウ化していき競争優位にすることが重要です。その時に鍵となるのが、本社の決裁者の理解とコミットメントです。アメリカに駐在している日本企業の方とお話をすると、アメリカでは頑張っているが、本社日本の決裁者の理解を得られず思うように進まない、という方がなんと半数程いらっしゃいます。前線にいる方が良いリードをつなぎ、本社の決裁者がしっかり理解して意思決定することがスタートアップと協業を進めるためには重要です。

参考にしたいのは「株式会社小松製作所」の事例です。決裁権のある方がアメリカの現地におり、skycatchというスタートアップ企業と出会いから約5ヵ月でPOCまで漕ぎつけることができました。これを機に他のスタートアップとも協業ができているという状況のようです。ぜひ前線及び本社の決裁者もコミットする必要であれば、決裁者も現地に出向くことをぜひしてほしいです。

最後にVCと連携についてご説明しますが、日本の企業が新たにアメリカでネットワークをつくるには数年と時間がかかりますので、既にアメリカにあるVCと連携したほうが効率的かと思います。VCも数倍のリターンを出すことをしっかりとコミットしていますので、自分が企業側であればやらない理由はないです。

中国DX最前線と日中協業のこれから

<ジャンシン(匠新)グループ 創業者 総代表 田中 年一氏>
日中でのスタートアップおよびイノベーション共創を推進するアクセラレーター「ジャンシン(匠新)」の創業者。2015年に上海でジャンシンを立ち上げ、2018年には深センと東京にも拠点を設立。2013年に独立する以前はデロイトトーマツにおいて12年間M&Aアドバイザリー業務や投資コンサルティング業務、株式上場支援業務、上場企業監査業務等に従事。うち2005年から2009年の4年間はデロイトの上海オフィスに駐在し、中国企業の日本IPOプロジェクトや日系企業のIFRS監査、投資コンサルティング業務等に従事。デロイトトーマツに入社する以前はHewlett Packard社でシステムエンジニアとして4年間の大企業向けエンタープライズシステム開発・販売にも従事し、ITのバックグラウンドも有する。上海に多大なる貢献をしたと評価される外国人に対して表彰される賞「白玉蘭記念賞」を2019年に受賞。東京大学工学部航空宇宙工学科卒業、米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計、税務)。現在日経クロストレンドで中国テックジャイアント「BATH」の記事を連載中。

田中 年一(以下、田中):本日は中国の生活レベルでの変化も例として取り上げながら、中国におけるDXの浸透状況についてお話できればと思います。

中国の生活ではテンセントの「WeChat」アプリを使うことが多く、WeChatが生活へのデジタルの浸透を促す大きな役割を担っているため、私の一日の生活行動を例に皆さんにご紹介したいと思います。

「WeChat」の中には数多くのミニプログラムがあり、生活の中で非常によく利用されています。例えば通勤時のバスの時間をミニプログラムで確認して乗車時にQRコードを表示させそのまま決済までできます。移動中に朝食のテイクアウト手配をケンタッキーのミニプログラムでオーダーし、こちらも決済まで完了させ、受け取りの待ち時間を短縮します。オフィスビルに到着後はコロナ禍となりますので、入館時にアプリ内の健康コードを提示し、問題なければ入館できます。その後ランチでは「美団点評」という、WeChatと並ぶ中国のスーパーアプリでフードデリバリーを注文します。その後、WeChat内のミニプログラムCtripで出張手配をします。日本でいう楽天トラベルのようなものですが、こちらで手配ができます。勤務を終えた後は友人とレストランへ行く際に、大衆点評という食べログのようなアプリを使い、お店を検索して友人に情報をシェアします。お店の場所が駅から遠い場合はお店のシェア画面内に配車サービスがあり、現在地からお店までのタクシー手配ができるようになっています。こちらは乗車人数やタクシー会社ごとの料金が表示され、ユーザーのニーズに合わせて選択できるようになっています。このようにWeChatのプラットフォームは中国の社会や生活にかなり浸透しています。BtoBのデジタル化を進めるにあたっても、デジタル化がインフラとなり国全体で推進しています。

中国DX浸透の背景(BATH TMD)

中国でスタートアップエコシステムが都市別に大きく4つあります。北京(バイドゥ)・上海杭州(アリババ)・深圳(テンセント)です。

直近のスタートアップが集まっている都市の資料となりますが、地域別の投資件数では先ほどの都市4つが上位にあり、日本の企業がDXやデジタル化も含めてイノベーションを取り組む際はこの4都市を抑えておくことがポイントです。加えて4都市それぞれで投資業界も分かれており、こちらも抑えるべきポイントになります。2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、トレンドが変わりつつあることも念頭に置いてください。ですので、地域別、時期によってのトレンドをしっかり抑えておくことが重要です。

下記は中国企業がGAFAに対応している図となります。

BATHではサービス寄りの3社、バイドゥ、アリババ、テンセントのカバー領域をご紹介します。

バイドゥは検索、地図、アリババはEC、テンセントはSNSに強みがあります。特にアリババ、テンセントは自社のエコシステムを、社内ベンチャー、社内イノベーション、投資、M&A、買収などでさらに広げています。特にアリババ、テンセントではO2Oでつなぎ、さらに拡張をしていくところで、決済、信用、OMO、宅配、飲食、配車も自社で対応をしています。

ここからはアリババ、テンセントの事例をご紹介したいと思います。

まずはアリババによるO2Oサービス、LST(りんしょうとん)での取り組みについてです。中国内に600万店舗ほどある「パパママストア」を、アリババが持っているビッグデータを活用しうまくデジタル化しています。オフラインの店舗はこのビッグデータを活用して、これまで人間の感覚値で行っていたもの、品ぞろえ、集客、接客、マーケティング、キャンペーンを主にオンラインでの取引や行為を蓄積したビッグデータを基に活性化し、さらにアリババの宅配サービスを活用してOMOが実現されています。これまで取引先も限定的なところだけだったのが、連携が進みLSTのプラットフォームから仕入れをすることが可能になり、売上げも伸びているとのことです。

次にテンセントによるD2Cの事例をご紹介します。アリババはお店とユーザーをプラットフォームでつないでいるのに対し、テンセントはプラットフォームではなく、お店やブランドが直接ユーザーとつながるツールを提供しています。最近中国のマーケティングでは、「パブリックトラフィック」「プライベートトラフィック」という要望に分けて使われています。

パブリックトラフィックでは、お店やブランドがマスかからさまざまな情報発信をして、プラットフォームに引き込みます。その後、購入に至った顧客に対して自社のプライベートトラフィックに引き込み、リピーターになってもらうような仕掛けができるのがテンセントの差別化をするポイントになっています。

次に中国のライブコマース市場についてお話します。サービスとしては2016年からスタートしたものの、新型コロナウイルスの影響で2020年から一気に伸びていて、今では小売業のDX化の取り組みとして欠かせないデジタルマーケティングの手段となっています。形態としてはファンを持つ人を起用する「スターKOL型」と店舗が社員や自身たちで運営チームをつくる「店舗自営型」があります。スターKOL活用の事例として伊藤園の成功事例があり、まずはKOLの活用で来店購入を一気に伸ばし、その後はいかにリピーターになってもらうかを戦略的に取り組んでいらっしゃいます。中国で物を売るうえで非常に参考になると思いますので、下記動画もぜひご覧になってください。https://jp.alibabanews.com/itoen_20201111_case/

最近ではTikTokの中国版「抖音 Douyin(ドウイン)」でもEC機能が追加されました。コマースへの流し込みとしては、動画で興味を持たせインタレストコマース(衝動買い)へ持っていく仕組みです。こちらはユーザーの様々な行為が蓄積されたビッグデータに基づいてピンポイントでの高精度マーケティングのアプローチが可能ということから、中国において非常に関心が高まっています。中国へ展開をする際はそのあたりを良く見る必要があります。

主要なプラットフォームのユーザー数と、一日あたりの平均使用時間は下記となっています。

プラットフォームごとに特徴は異なりますが、WeChatはユーザー数、1日の使用時間が比較的安定して伸びているのに対し、Douyinは2018年以降ユーザー数が伸び始めWeChatを超えていないものの、一日の利用時間はDouyinが既にWeChatを超えています。ショート動画アプリは一度見始めると次々に見てしまうという傾向から滞在時間が伸びているようです。

最後に、新たに注目されている中国企業をご紹介します。最近はBATからTMDと言われており、トウティアオ、メイチュアン、ディディが大いに注目されています。

参加者の皆様へのアドバイス

<ユナイテッド株式会社 執行役員 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 電通にて国内外での広告プランニング、ビッグデータを用いたマーケティングROI向上支援等に従事。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

米田 吉宏(以下、米田):お二人とも本日はありがとうございました。アメリカではSaaSの領域の変化、中国の投資の違い、新しいサービスでどんな生活をしているかなど、理解をすることができました。

日本企業がで実践する際に参考になる部分があれば、お二人からアドバイスをいただければと思います。

野津:日本にいると日本で閉じてしまうので、決裁者を含め、ぜひアメリカへ出向いていただき、スタートアップやVCと直接話すことをお勧めします。また実際にスタートアップのプロダクトを使う、協業してみるのも良いかもしれません。株式会社小松製作所でも自社のプロダクトをディスラプトする覚悟で協業を始め成功しています。ホンダはドライブモードを買収していますが、トライしてみて自分たちの課題が何か見えてくることもあると思います。

田中:日中協業で新規事業を始める場合に、中国国内でやるパターン、中国で進んでいるものを日本に持ち帰るパターン、日中で東南アジアに進出をするパターンなどがあるかと思います。まずどのような目的で中国と付き合い何を始めるのかを明確にし、お互いがウィンウィンの関係になれるよう、日中それぞれの強み、お互いの企業の強みから協業するメリットを一度考える必要があると思います。野津さんもおっしゃっていた通り、決裁権のある人が現地に来ることはスピード面や正しく理解をするという面では必要かと思います。直近半年の間にこれまでシリコンバレーでCVCをしていた方が、中国に投資活動をする人を置いている企業が増えてきていますので、そのような人を派遣してみるのも良いかもしれません。

米田:本日はお話いただいたアメリカ・中国の動向について、参考になれば幸いです。野津さん、田中さん、貴重なお話をありがとうございました。