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大手小売店のDXを徹底解剖
~最先端事例から紐解くあるべき姿~

ウェビナー報告

ユナイテッド株式会社が主催したウェビナー「大手小売店のDXを徹底解剖~最先端事例から紐解くあるべき姿~」のレポートをお届けします。ゲストには、株式会社三越伊勢丹 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部の仲田 朝彦氏をお迎えし、当社からは執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏が登壇し、各社プレゼンの後、パネルディスカッションを行いました。

<ユナイテッド株式会社 執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

米田:皆さまもご存じの通り、度重なる緊急事態宣言により、小売業界は時短営業を余儀なくされ大きな影響を受けています。もはや、小売業におけるこれまでの常識が通用しなくなっており、ビジネスモデルの変革が迫られています。本日は三越伊勢丹デジタル事業運営部の仲田 朝彦氏をお招きし、三越伊勢丹の最近の取り組みである「バーチャル伊勢丹」を事例として、小売業界の今後の目指すべき姿について徹底的に深掘りしていきます。

小売業のDX全体像について

米田:私より、小売業のDXについて、全体像をお話しできればと思います。緊急事態宣言の中で、営業時間の短縮や、消費者のライフスタイルがデジタル化している流れもあり、小売業は転換期に入っています。こうした中で、小売業のDX全体像は以下の3つに大きく分けられます。

1つ目は「顧客の囲い込み」。既存で来店されているお客様に対し、デジタルプラットフォームを介して「顧客を囲い込む」、つまりエンゲージメントを高める施策です。具体的には継続的なポイント等のインセンティブの付与や、ピンポイントでの消費者への情報配信などがあります。
2つ目は「接客の高度化」。対面での接客のみならず、リアルとデジタルのハイブリッド、またはデジタルのみで接客します。
3つ目に「新たなUXの創出」。これまでにないような新しい顧客体験を提供することです。ここは後ほど、三越伊勢丹さんに詳しく解説していただきます。

とにもかくにも、顧客とつながってエンゲージメントを高めていく取り組みや、デジタルを活用して、既存の接客の価値をもう一段高める取り組み、さらにまったく新しい顧客体験を創出すること。これらの3つの施策を組み合わせて事業をレベルアップさせることが、消費者と接点を持つ場面において極めて重要です。

※OMOに関する記事はこちら

仲田氏の考えるバーチャル領域での”顧客体験価値”とは

仲田:私からは、小売業の”新しい顧客体験”に関してまして、三越伊勢丹としてどのような取り組みをしているかご紹介いたします。バーチャル事業を始めた背景としては2つ理由があります。1つは入社した2008年にリーマンショックにより、小売業が大きな影響を受けたことです。2つ目にスティーブ・ジョブズ氏がiPhoneを発表したプレゼンにおいて、ジョブズ氏がグーグルマップを見せながら、オンライン上で旅行をしているようなビジュアルを見た際に、いつかネット上に伊勢丹を立てたいと思ったことです。実際にバーチャル上に伊勢丹新宿店をたてるといった仮想都市事業を始めるまで、社内起業制度で何回もチャレンジし続けてようやく現在、この取り組みが始まっているという状況です。社内起業制度でなかなか通らなかったのは、実現可能性を示すことができなかったからだと思います。そのため自分で仮想都市を制作し、現物を提示することでなんとか事業化までこぎつけました。

<株式会社三越伊勢丹 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部 仲田 朝彦>
1984年4月3日生まれ、東京都多摩市出身。早稲田大学 政治経済学部 経済学科卒業。
2008年 株式会社伊勢丹(当時)に入社後、紳士服担当として店頭・バイヤー業務を経験。2019年 三越伊勢丹 MD統括部 シームレス推進部、2020年 三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室 関連事業推進部を経て、2021年より三越伊勢丹 MD統括部 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部(現職)。現在、VRを活用したスマートフォンアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」の事業企画・開発責任者としてVRプラットフォームの拡大に挑戦中。

仮想世界事業とは?

事業を研究すればするほど、バーチャルではリアルと非常に近い、お客さまのニーズと体験価値が求められていることがわかりました。私としては、バーチャル世界でもう一人の自分(アバター)を使って、仮想伊勢丹新宿店でお買い物をしてもらうことにはこだわっておらず、リアルと同じように、バーチャルの都市の中でドライブをしたり、おうちでくつろいだり、映画鑑賞できるなど、いろいろなことができる方がお客さまがハッピーだと思います。その中で、特に思い出に残るようなEC体験をしていただくことが、私の目標です。例えば家に帰って1人でECサイトで買い物をするのではなく、誰かと一緒にお買い物を楽しめるサービスの提供です。またデジタル化が進んでいる今日でも、日本のBtoC-EC化率は約6.7%と、10年でわずか4%しか伸びていない現状があります。(2020年、経済産業省調べ)つまり94%の人は従来のECでの買い物方法を求めていないとも読み取れます。

現在取り組んでいること

現在はVRを活用したスマートフォン向けアプリ<REV WORLDS>の開発に取り組んでいます。もう1人の自分(アバター)を用いて、仮想伊勢丹新宿店でのお買い物を楽しむことができます。特徴として、実店舗の催し物をバーチャルでも連動することで、約320点の商品をバーチャル内に展開している他、その日の気分に合わせてアバターのお洋服を着せ替えることも可能です。

事業投資におけるポイント

私はバーチャルでECショッピングをする以外に、バーチャル空間において自分らしさを表現していただきたいと思っています。インターネット上で自分らしさを表現するのは簡単なことではありません。オンライン上にて自分らしさを表現する手法として、これまでmixiやTwitter、InstagramなどのSNSにコミュニケーションの領域が進化してきました。インターネット上で自分らしさを表現する有効な手法の一つに「ファッション」があると思っており、アバターが着るお洋服をアバター用に販売するいわゆる“課金ビジネス”に可能性を感じています。つまりここで販売するものは「洋服」でなく、「データ」です。これは従来の小売業にとって、大きなメリットがあります。従来のモデルであれば、膨大な数の発注と管理する倉庫、さらには販管費がかかります。しかしデザインデータに関しては販売するものが「データ」なので、販売可能数は無限になります。また在庫を抱える必要もなく、倒産のリスクも排除できます。これにより、デザイナーは「売れるモノ」を作るのでなく、「作りたいモノ」を作ることができます。

実際に当アプリでアバター機能を利用しているメイン層は10代から30代の若者になります。百貨店のメイン顧客は40代後半となっており、次の世代の獲得に苦労しています。このような状況下で、若者によるアバターの使用が今後の若年層獲得のポイントになると思っています。さらにデータとして、日本は世界で最も課金をする国という事実があるなど、日本にはバーチャルでの課金に抵抗が少ない方が多いです。調査をしていく中で、インターネット上でもお客さまは生活をして、ライフスタイルを持っていることを認識しました。そのため、これまでリアルでお客さまに価値を提供してきた企業様ほど、バーチャル事業を行うべきだと考えます。なぜなら、これまで培ってきたノウハウをバーチャルにも転用できるためです。

なぜ百貨店がバーチャル店舗を作ったのか

米田:事業を始めた理由は大事なポイントなので、上記のプレゼンテーションでも言及されていましたが、ここからさらに深掘りしていきたいと思います。百貨店である、三越伊勢丹さんがなぜ、バーチャル店舗を作ったのでしょうか。

仲田:本当の理由としては、私個人がすごくやりたかったからです。三越伊勢丹には若手の中から次のビジネス機会を探索するための社内起業制度があります。最初は単純にインターネット上に伊勢丹を立てたいという気持ちだけだったのですが、ある時、小売として解決しないといけない課題と自分のやりたいことがマッチしていると気付きました。小売りの問題として、店舗を立てても、そこへ足を運べるお客さまは半径数十kmが限界ですし、かつ営業時間も限られています。一方でバーチャルであれば、日本中どこにいてもお買い物ができるため、<REV WORLDS>はこれらの課題を簡単に解決することができます。

米田:ありがとうございます。他業界でも、例えば配達ピザ屋さんは配送の供給キャパシティーの限界により、売上の天井が見えていました。しかしそれがモバイルオーダーになったことで、仕事帰りなどに「できたて」がピックアップできるようになるなど、デジタルによってもう一段、既存の価値を超えていく取り組みが流行っていますね。また、主体者の方が強い問題意識を持って、変えていかなければいけないということを仲田さんとお話ししていて思いました。

仲田:そうですね。実は一度、社内起業制度で落ちてしまった際に、やっぱりあきらめきれず、バーチャル事業を本気で作りたいんだと改めて覚悟を持つことができました。

米田:入社時から一貫してやりたいと思い続けた、ご自身の原体験は何でしょうか。

仲田:一時期入院していた際、時間があったことからボスを倒すゲームをしていたのですが、気づいたらアバターの着せ替えに没頭していました。バーチャル上ですれ違った方に「ナイスファッション」と言われることがうれしくて、最終的に欲しくなった眼鏡に3万円課金して購入したことで、「もしかしたらこの体験、ビジネスになるかも」と思いました。この原体験が自分にとって大きかったのかなと思います。

リアル店舗の役割は、今後どのように変化するか

米田:仲田さんご自身の意見として、リアルの店舗の役割は、今後どのように変化していくとお考えでしょうか。

仲田:非常にシンプルですが付加価値というのがリアル店舗の役割だと思っています。ECは購買時の「コスト」を減らすことが提供価値です。スマホができてから消費者のコスト意識が高まっていると感じています。例えば移動時間をコストと捉える方が増えました。ECでお買い物をすると移動や滞在時間のコストを短縮できます。この減った差分がいわゆるECの提供価値になります。一方でリアル店舗では、「彼女とお買い物をした」、「おじいちゃんにプレゼントをもらった」など、モノを手に入れる際に、思い出といった付加価値を得ることができます。デジタルの取り組みを推進する中で、ECがリアルを超えることはないと再認識しました。バーチャルでの取り組みはあくまで最初の接点の創出にすぎません。リアル店舗の役割は、効率的な体験を提供するのではなく、人との繋がりやプロセスに重きを置いたアナログ的な取り組みをするべきだと考えます。

米田:非常にわかりやすかったです。確かにデジタルデバイスが普及する中で、時間や滞在をコストだと捉える人が多くなる中で、コストを上回る価値をリアルで担保することに注力するということですね。

仲田:まさにそうです。しかしその中で1つ難しいと感じているのが、リアルの体験価値を高めるほど、売れるモノの総量や1人のお客さまにかけるコストが上がってしまいます。小売りの利益率の平均は1~3%で、この利益率がさらに落ちてしまうと経営問題になってしまいます。そのため、これを実現するには、併用する別の収益モデルが欠かせません。リアル店舗を持つ企業はDXにきちんと取り組むことで収益を確保し、リアル店舗は顧客体験価値にフォーカスすることが大事だと考えています。

米田:企業もリアルやバーチャルだけでなく、リアルにプラスでバーチャルを掛け合わせて、利益を確保するモデルを作ることが大切だと思います。

現時点での「バーチャル伊勢丹」での顧客の反応は?

米田:「バーチャル伊勢丹」での顧客の反応はいかがでしょうか。

仲田:もともとバーチャルアプリ<REV WORLDS>は10代~20代を狙って立ち上げたサービスでした。少し定性的なものになってしまいますが、おそらく一番反応があるのは、30代~40代です。若い方向けに作った施策ではあったものの、自分と同じ年代層向けの施策になってしまったかもしれません。ただ、面白いところがありまして、全く想定していなかった顧客群が2つあったことです。1つ目は3~8才の子どもたちです。サービスを立ち上げ後に友人から「うちの子がよく利用している」という旨の連絡をたくさんいただきました。3~8才の子どもたちが、アプリを上手く操作できるという事実に驚きました。2つ目は70~80代のご年配の方でした。立ち上げ後に、お客様から「今コロナで百貨店に行けないけど、バーチャルで行けるんでしょ?」「使い方教えてほしい」とご連絡をいただきました。今後、ご年配の方へとさらに普及が進むのであれば、バーチャル上でお孫さんとお買い物ができるといった体験を提供したいと思っています。

米田:非常に面白いですね。お話を伺う中で、これまで三越伊勢丹さんがリアル店舗で圧倒的な顧客体験を提供してきたことがわかりました。それがしっかりとあるので、バーチャルでのお取り組みでもご年配の方にしっかりと反応いただけているのだと思いました。どうしてもバーチャルでの取り組みは新興企業が得意なイメージがありますが、本質的にはバーチャルは手段にすぎず、顧客体験をどこまで高めることができるかということです。そういう意味では三越伊勢丹さんは非常に強みを持っていると認識しています。

取り組みを推進するにあたり、どのように経営陣を巻き込んだのか

米田:弊社の過去のウェビナーでも話題になったのですが、こうした新しい取り組みを推進する際に、経営陣への意思決定を促すために、どのような工夫を行ったのかあればお願いいたします。

仲田:実体験としてですが、若手社員から新規事業アイデアを聞くにしても、それを判断する経営側にリテラシーがないと、事業の妥当性をジャッジできないと思っています。ここが非常に難しいところです。なのでリテラシーがないのは前提として、そこから「投資したい」といかにして思ってもらうかが大事だと考えます。私が一番苦戦したのは、新規事業ではエビデンスが極端に少ないことです。だからこそ、情熱をもって仮説をベースに未来のビジョンを熱く語ることに加えて、ビジュアル化する(画にして伝える)ことが重要だと思いました。そこでビジュアルを作製し、実現可能性を示しました。また、追い風だったこととして近年では、CGツールが無償化されています。経営陣には、バーチャル領域ではリスクが非常に小さいことを強調しました。バーチャルでは、本来のモデルである店舗を構えるために、土地を買って、内装費をかけるようなモデルではありません。そこで、自分のかけた時間のみしかリスクがない中で、成長事業にトライできることを経営陣に訴えました。まとめると、実現可能性を見せることと、リスクを最小限に抑えることを新規事業では意識しました。その他、実証実験を行う際に何をKPIとして追うかもポイントだと思います。私は、最初のトライアルでは話題性を取ることにこだわりKPIを設定しました。自分が行ったトライアルについて、お客さまの声に限らず、他社の経営者の声も獲得できるようにすることで、経営陣に客観的な評価が届くようにしました。

米田:おっしゃる通りですね。コストの最小化や実現可能性を最初からここまで具体的にCGツールで作成することで、言葉のみで語ることに比べて意思決定者の想起が容易になったことは、経営陣を納得させるためのポイントだと思いました。あとは、主体者だけのポジショントークにならないようにするための第3者の評価や意見を交えての意思決定を促すということですね。こちらは私にとっても非常に参考になるお話でした。

本日は、貴重なお話ありがとうございました。