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ブリヂストンが目指す モノづくりとソリューションの融合

対談

ユナイテッド株式会社では、各業界でDXのトップランナーを取材しています。

今回はタイヤ業界の中でもDXに特に注力している「ブリヂストン株式会社」へ取材に行きました。当社の強みであるモノづくりに最新のソリューションを組み合わせ、どのようにしてDXを加速させているかお伺いします。

ソリューション事業の全貌

米田:モノ売り(A事業)を主軸としていた貴社が、コト売り(B事業,C事業)の領域をどう伸ばそうとしているか教えていただけますか。

桂:タイヤを創って売るA事業B事業およびC事業(以下事業は省く)は切り離している訳ではなく一体となっての実現を考えています。われわれはグローバルナンバーワンを争うタイヤメーカーであり Aの領域でこれまで培ってきた強みをベースにBとCが成り立つ構造です。

当社は持続可能な社会の実現に貢献することを目標としています。最高のタイヤを創るメーカーであるわれわれが当社ならではの新たな価値創造を考えた時、ソリューション事業に行き着きました。また社会貢献できなければ会社の存続もないと、当社は考えています

タイヤを正しく機能させ長く使用いただくには、適切なメインテナンスが必要になります。うまく使いこなすことでタイヤの利用コストが下がるばかりでなく、お客様の安全・業務の効率化・生産性向上にもつながり、環境負荷も下げられます。例えば低燃費タイヤを使用したり、空気圧を随時管理したりすることで車両の燃費が向上します。燃費が向上すれば運行コストが下がり環境負荷を下げることが出来ます。また内圧管理は安全な運行にも大きく寄与します。

こういった理由からタイヤの空気圧をデジタルで随時モニターすることで適正な空気圧の維持を図るソリューションビジネスを始めています。売ったら終わりではなく、デジタルでタイヤの使用状況をモニター、タイムリーなメインテナンスを提供することで新たな価値を生むことを目指しています。

お客様に貢献し、ひいては社会にも安全性や環境性といった面で貢献できると考えます。このように、当社では中長期事業戦略構想として、社会価値と顧客価値の両方を提供する事業を行うことを掲げています。

【株式会社ブリヂストン モビリティソリューション戦略部長 桂 慎吾】
1990年ブリヂストン入社。技術サービス、マーケティング・商品企画・海外営業を担当。UAE、サウジアラビア、ポーランド、オーストリア、イタリアに駐在。

また、SDGsへの貢献ということで2030年までと2050年までのロードマップを描いています。2030年にはCO2の排出量を2011年対比で30%減、2050年にはカーボンニュートラルを目指そうという方針のもと、施策を打ち始めています。例えば、以前から“リトレッド”と言って一度すり減ったタイヤの残った骨格に新たなトレッドゴム(路面に接地し摩耗する部分)を張り合わせタイヤを再生、タイヤの大部分を占める骨格部分を再利用することで資源生産性の向上とタイヤ利用コストの低減を両立するサービスを行っています。さらに、使用後のタイヤを「ゴムに戻す」、あるいは「素材に戻す」といった研究を行っています。 

当社の強みを活かしてサステナブルな社会に貢献していく、それをやらないと生き残れないと言う危機感があります。去年、第三の創業ということでBridgestone 3.0という名目のもと動き始めているところです。

米田:事業の起点は社会価値の向上や利用者のペインを解決することがメインとなることが多いですか。

桂:そうですね。ソリューションビジネスは、お客様の課題・社会価値の課題を解決することが起点となります。

米田:多くの企業は社会貢献活動を本業の中で行うのではなく、本業と切り離して行うケースが多いと感じています。御社が本業の中で社会貢献を行う理由は何ですか。

桂:寄付金を出すような形の社会貢献はお金が尽きたら続けられなくなります。しっかり認めていただける価値を生み、マネタイズしビジネス化することで継続的に社会貢献をしていきたいと考えています。提供価値の一部を対価としてわれわれが頂くイメージです。

本業の方も見直しが行われています。タイヤのマーケットは安かろう悪かろうでいいセグメントと、多少高くても良いモノが求められるセグメントがあります。これまで当社はマーケットを幅広くカバーしてきましたが、当社の強みを活かせるプレミアムゾーンへ注力、逆に収益が上がりづらい領域からは撤退するという、選択と集中を重視した事業運営への転換を進めているところです。

ソリューションを支えるツール

米田:御社のソリューションビジネスを支えるツールがどのようなものか教えていただけますか。

桂:主な例として、Webfleet、Tirematics、BASys、Toolboxの4つのデジタルプラットフォームがあります。これらを組み合わせ、タイヤデータと車両運行データをリンクさせることで、包括的にタイヤの状況を遠隔モニタリング。適正なメインテナンスや利用方法等につき提案をすることができます。

Webfleetはフリートマネージメントソリューション(FMS)を提供しますが、車両データの入手方法としても活用しています。オランダのTomTom社の子会社であるTomTom Telematicsを買収して、その後Webfleet Solutionsに名前を変えました。

Tirematicsは内圧や温度などタイヤの状態を管理するシステムであり、タイヤと車両運行データを解析し、お客様に価値を提供していくプラットフォームです。タイヤデータと車両運行データを組み合わせてお客様にベストなタイヤの使い方を分析します。

Toolboxはタイヤのデータベース兼顧客向けレポーティングサービスです。

顧客の在庫タイヤ・使用中のタイヤの状況がデジタルで一括管理、Tirematicsでの分析結果を顧客へレポートする機能も担います。

BASysはリトレッドタイヤの製造から販売までを管理するプラットフォームです。

米田:Bridgestone T&DPaaSの世界観を達成させるために、足りない要素としてTomTom子会社を買収したりすることで成長を目指していらっしゃると思います。そういった戦略ありきで、事業を進めていらっしゃるのでしょうか。

桂:そうです。われわれはモノづくりメーカーから始まっており、今後のソリューション事業に必要な部分は外部からも取り入れることを戦略的に行っています。特にデジタル関連のケイパビリティは重要になります。

デジタル知識の社内共有

米田:エンドユーザーに対するサービスを、デジタルを用いてどう変革されましたか。

【ユナイテッド株式会社 執行役員 米田吉宏 】
慶應義塾大学経済学部卒業後、 電通にて国内外での広告プランニング、ビッグデータを用いたマーケティングROI向上支援等に従事。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

桂:正直、開発途上ですが成果は出始めています。われわれはモノづくりメーカーでありベストの商品をお客様に提供することを主眼に活動してきました。しかしながら現在は、先ほどWebfleet Solutionsや、鉱山事業者向けにiTrackと言うソリューションを提供する英国の会社も買収しました。まったくわれわれとは毛色が違うソフトウェアカンパニーの人たちが仲間になり新しい視点が加わりました。

われわれはソフトウェアカンパニーからの学びを活かし、もの創りの経験も活かしながら当社ならではの新しいアプローチを創り出そうと考えています。モノづくり企業は完成度の高い商品をマーケットに出すことを強みとし万全な品質保証体制の下100%の顧客満足を目指した商品開発を行っています。一方、Webfleet SolutionsやiTrackの仲間と話すと、アプローチ方法が違うことが分りました。顧客のマジョリティのニーズを素早くキャッチし商品を具現化、マーケットに出してみてからどんどん改良を進め完成度を高めていくやり方です。

実際両社とも顧客ニーズを頻繁に吸い上げ2-3週間に1回のペースでサービスのアップデートを行っています。データの見せ方やUI/UXと言われる部分も彼らから具体的に学び、われわれのソリューションビジネス開発にも活かそうと考えています。

当社のGlobal CEOは、自ら新たに仲間に入ったソフトウェア畑の人たちとディスカッションを行っていますよ。

米田:これまで注力してこなかった分野を伸ばすために企業の買収を行い、買収した企業からさまざまな知見を得てサービスを磨きこもうとしているのですね。

桂:そうですね。欧州はモビリティが成熟した先進市場でありWebfleet Solutionsを買収した訳ですが、その1年後には親会社にあったソリューション部隊をWebfleet Solutionsの中に入れてしまいました。われわれが彼らの中に入ってソリューションを展開していき、同時に知見を得ていくといった手法は他の企業に比べても珍しいかもしれませんね。

米田:現在、Webfleet Solutionsにデータが蓄積されていますが、今後どうやってそのデータをグローバル共通で管理される予定ですか。

桂:タイヤデータの蓄積や管理はTirematicsを通して行っています。Tirematicsは グローバル共通のデータプラットフォームとして完成しています。

そして、Tirematics上で回すアルゴリズムを開発するデジタル部門が日本、ヨーロッパ、アメリカと3つあります。タイヤのR&Dとデジタルが各部門密接につながっており、それらが連携するコミッティーを形成、グローバルで強調し仕事を進めています。各局のデジタル部門が得意分野やマーケット環境にあわせた活動を展開。情報を共有し効率的に課題解決を推進、シナジーを高めています。

米田:グローバルで情報とナレッジを共有しながら、開発のスピードを加速させようと考えていらっしゃるのですね。デジタル部門に関わる人材はどのように育てていらっしゃいますか。

桂:人材に関してはデジタル部門の人間に限らず、広範囲の社員がデジタルを学べる講座を行い育成につなげています。また、Webfleet Solutionsだけでも630名のデータサイエンティストが在籍しており、全社のデジタルリテラシー向上にもつながっています。

米田:デジタル部門の社員はアナリストからアソシエイトへと順に上がっていくと伺いました。彼らの成長を促進するためには、Off-JTとOJTをバランスよく取り入れているのでしょうか。

桂:はい、そうですね。また、当社にはさまざまな専門知識を持ったスタッフがおります。デジタル部門だけではなく例えばタイヤ設計者、ゴムの開発者等々の知見を組み合わせ それぞれの視点を分析に折り込むことで、チーム全体の成長やレベルアップを促進しています。

全社で取り組むDX

米田:DXを進める上での課題はどのようなものがありますか。

桂:個人的な意見ですが、われわれの起点はモノづくりメーカーなので多くのスタッフの思考がモノづくりに向いています。それに対してBridgestone T&DPaaSの活動に共感をするものの、自分としていかに参加すれば良いかと問われるケースがあります。社員に新しいカルチャーを浸透させ「自分は何ができるのか」がイメージできるような環境を創り出し、行動してもらうことが必要だと考えます。

米田:日本・アメリカ・ヨーロッパと三拠点のイノベーションの本拠地があると思うのですが、変革に対する受容性は各国で異なりますか。

桂:変革に対する受容性はどこも高いと言えます。中長期事業戦略構想、Bridgestone T&DPaaSといったモビリティ戦略を進めていく方針は、全社で理解し共感されています。さまざまな部署が中期事業計画達成などの目標に向けて、具体的な行動を起こしています。良い変革が生まれてくると思います。

米田:全社員が総出で目標達成に向けて行動している状態は素晴らしいですね。

桂:はい。それを実現できる理由の一つにGlobal CEOが強烈な旗振り役になっていることが挙げられます。実際 中期事業計画等の戦略やその社内外への説明についてはGlobal CEOの強いリーダーシップの下その準備が進められています。

米田:やはり、全社的な変革はCEOがコミュニケーションを率先して行うことが重要なのですね。

桂:そうですね。Global CEOが一番よくデジタル領域について勉強しているのではと思う節が多々あります。

米田:最後に、これからDXを進めようとしている人や現にDXを進めている人に一言アドバイスをお願いできますか。

桂:DXは目的ではなくて手段だと思います。どういった目的や目標を持っているかによって、デジタルは大きな武器になると思います。そのため、行先を明確にしてその上でデジタルをどう活用するか考えることが重要なのではないでしょうか。