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DXを進めるための組織要件と人材育成

ウェビナー報告

ユナイテッド株式会社が主催したウェビナー「DXを進めるための組織要件と人材育成」のレポートをお届けします。ゲストには、株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所所長 東京学芸大学大学院准教授 小宮山 利恵子氏をお迎えし、当社からは執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏が登壇しました。

<スタディサプリ教育AI研究所所長 東京学芸大学大学院准教授 小宮山 利恵子>
1977年東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。国会議員秘書、ベネッセ等を経て2015年リクルート入社。経団連EdTech戦略検討会座長、DX委員会委員。超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。他に東工大リーダーシップ教育院アドバイザー等を兼務。近著に『教育AIが変える21世紀の学び』(共訳、北大路出版、2020年)他。

<ユナイテッド株式会社 執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

DX推進組織の要件

米田:DX推進組織の要件についてご説明できればと思います。まずそもそもDXが求められる背景は何なのか、またDXの仕事はどのような業務なのかを大きなサマリとしてお話しできればと思います。

直近だとIT進化による顧客や競合の変化やサイバーリスクの高まり、またそもそもスピードが遅いことに起因する競争劣位や、既存システムに詳しい人材の流出などの圧力があると思っています。そのような中で企業としては中長期的かつ持続的な利益成長が求められており、新たなビジネスチャンスの獲得やコスト効率化、また市場変化に対応するためのオペレーション/ビジネスの構築をしなければならないというのが背景だと思います。

特にデジタルは非常に早く進化していく中で、求められるスピードがどんどん高まっているというのが現状なのかなと理解しています。

このような中で、DX推進の難しさが構造的にどこにあるというのを示したのが以下の図になります。

まずDXのプロジェクトを始めるにあたり、経営陣から「そもそも目的は何か」「そもそも本当にROIが合うのか」という話もあれば、ITシステム部門からは「セキュリティは大丈夫なのか」「既存システムとその変革は本当にマッチするのか」という話もあります。また一方で顧客からすれば、その変革に伴って本当にサービスの利便性や体験が向上するのか、また既存のオペレーションを行っている部署からは「業務が変わってしまったら今の従業員のオペレーションと合わなくなってしまって、そこをキャッチアップする負荷はどうするのか」など、さまざまなステークホルダーから期待や懸念が寄せられる仕事/組織だと思っています。

よって、DX推進のために必要なスキルは非常に多岐に渡ると考えています。目的や戦略KPIを立てることはもちろんですし、予算配分や資源配分をどう行っていくのか、どのようなオペレーションに変えていくかというところもそうですし、さまざまなエンジニアやデザイナーの方、あるいはプロジェクトマネジメントに長けた方とコミュニケーションをとって融合しながらチームを作っていかなければいけません。そして何より組織としてどんな風にチーミングして、どんな風に経営層とディスカッションしながらDXを進めていくかを形作ることも大事です。

今日は、特に「組織/チーミング」について、ユナイテッドで経営層の方150名程度にアンケート取ったものの結果も踏まえながらポイントをお伝えしたいと思います。

1点目。まず実現したいこと/期待効果から逆算したメンバーポートフォリオの具体化ということですが、ユナイテッドで実施したアンケート等によると、「DXをやれ」と指示されて何の目的もない中でDX推進組織が立ち上がった場合、基本的にはチームは動きません。もしちゃんと目的があったとしても、実現したいこと/期待効果を創出するのに適したメンバーポートフォリオ、例えばエンジニアであってもAIエンジニアが必要なのか、あるいはフロントサイドデザインに近いエンジニアが必要なのか、など具体化を進めるのが何よりも大事かなと思っています。

2点目。もう一つ非常に面白いと思った部分は、われわれがアンケートしたところでいくと、CDOをアサインしている企業の方がDXの投資回収がうまくいっていた傾向にあります。このCDOがどんな方だったかというと、名ばかりのCDOではなく、知見専門性が高い人材や変革に対してポジティブで積極的な人材がアサインされているケースが多かったです。特にCDOに求められるような役割としては、経営層と深い対話に基づいて、DXのビジョンをどれだけ具体的にできるか、そして具体的にすり合わせたうえで、CEOや経営層のコミットを引き出せるかというところがあります。またそれを握ったうえでDX推進組織のメンバーに明確にビジョンとして伝えて、アクションプランに落として動かしていく、という役割を担える人です。

3点目。CDOが統括するDX推進組織については、全社横断で変革を動かすための関連する部署メンバーを専任でアサインするということが大事になっていました。専任メンバー中心の組織の方が成功企業割合が高いという状況でした。解釈はいろいろあると思いますが、私としては、まずDX自体が部署をまたぐようなプロジェクトになりますので、広い部署のメンバーがいないと、なかなか個々の部署のオペレーションなどのリアルな情報を知ることが難しくなるので、推進も難航しうるなと思っています。ゆえに幅広くメンバーを集める必要があります。また全体との連関を考えないといけないので、業務量そのものも非常に多くなることがあります。よって、専任メンバー中心の方がうまくいっているのではないかなと思っています。

4点目。抜け落ちがちではありますがプロジェクトマネジメントは極めて重要だと思っています。実現したいことは最初に決めないとウォーターフォール的に他の部署に落としていけないからです。またそもそも何かしらの領域で詳しい人材が必要な場合、足りない人材については躊躇せずアサインする、場合によっては社外からもアサインするということを是非気を付けていただきたいと思っています。

最後に5点目。直近の経営学の潮流でもそうですが、もともとはプランニング学派と言われるような徹底的に実現したいことをプランニングして、それに基づいて実行する、というのが経営学での中心の研究でした。しかし直近で言うと、組織能力に関する研究の方が多くなっていると思います。何か全く想定していないことが起きても、それに対して柔軟に対応できる組織かどうかということが求められていると思います。プランニングも大事ですし、組織能力として臨機応変に対応できるというのも大事で、プロセスによってどちらが重要という割合は変わると思いますが、DX推進においても同じで、最初プランニングは頑張るものの、基本的には全て想定しきれないことが多いと思います。よって、ある種起業家のマインドセットに近いような、エフェクチュエーション的な柔軟に臨機応変に、失敗だと思ったこともポジティブに考えて行っていくマインドセットを持った組織が極めて大事なのかなと思っております。

DX人材育成の要諦

小宮山:リクルートの小宮山です!よろしくお願いします。

私はリクルートに所属していますが、リクルートが兼業が可能な会社であるので、現在複数の団体のアドバイザーも務めております。もともとは国会議員の秘書をしていて、その後ベネッセの会長秘書を経て、2015年からリクルートに転職してまいりました。今日のトピックであるDXについては、経団連のDX委員会の委員をさせていただいてます。

今回のテーマ「デジタルトランスフォーメーション」は、そもそも抜本的な改革を表しているものだと認識しています。デジタイゼーションとデジタライゼーションという概念がありますが、デジタイゼーションの方は部分的な改革で、デジタライゼーションはテクノロジーを使った抜本的な改革です。DXを推進するにあたっては、まずどちらをやりたいのかを認識いただくのがよいかと思います。私が今回お話したいのは抜本的な改革の後者の方であり、そのために必要な人材育成についてお話しできればと思います。

実は、2020年度はもともと教育は激動の一年でした。2020年は10年に一回の小学校の学習指導要領が改定される年で、プログラミング教育が入ったり英語が教科化されたり、かなり大きな改革がありました。それに加えてコロナが始まって3月2日に臨時休校になり、GIGAスクールと言われている小中1人1台PCの整備が前倒しされて、今年の4月の段階で97%以上の自治体が1人1台PCを整備しているという状態になっています。これまで日本の教育のデジタル化は先進国に比べると遅れていましたが、それがここにきて一気に進んでいるという状況です。

私自身も取材をいただくことが多く、よく教育DX含めて未来はどうなるのかと質問されることが多いです。しかし、急速に進むテクノロジーや、それに伴ってとても早くなった社会の変化を背景とした混沌としたVUCAの世界が広がっている以上、明確な地図を持つことはできない。その代わりにコンパスを持つことが必要ではないかと思っております。

例えば、COVID-19です。これまでスペイン風邪など、ウイルスによって社会変化が起きたこともありましたが、”2020年”にコロナが出てくるということは誰も予想していなかったわけです。いきなり出てきて、ニューノーマルな時代が来たと言われたりして、リモートワークが普通になりつつあります。この現象は今までなかったことだと思うんですよね。リモートワークをやりなさいと、政府から言われていましたが、実際にやっていた企業はどれくらいいたかという話です。

それに加えてもともとあったAIや5GやMR、量子コンピュータなどさまざまなテクノロジーが出てきています。

はっきりとした地図はないため、コンパスを持つ必要があると思っています。そしてコンパスをもってどうすればいいかというと、動きながら考える必要があると思います。これまでは、特に教育領域では、石橋を叩いて叩いて、120%、150%できたという段階で、ビジネスとしてローンチしていましたが、それだと速さが合わなくなるわけです。そもそも橋を渡る必要がなくなったり、橋が崩落したりします。30%40%も考えたと思ったらまず動き出してみて、その中で改善を加え、よりよいものにしていく必要がある思っています。

もちろんその過程で失敗することもあります。その点では、リクルートは失敗を許容する環境が非常によくできている、裏を返せば社員がチャレンジをしたいと思う環境がよくできているなと思っています。

まずそもそも失敗とは何かですが、「人間が関わっている望ましくない結果」「やってみたがうまくいかないこと」などと定義されています。『失敗の科学』というベストセラーがありますが、この本には「誰もが皆本能的に失敗を遠ざける。だからこそ、失敗から積極的に学ぶごくわずかな人と組織だけが”究極のパフォーマンス”を発揮できるのだ」と書かれています。先ほど米田さんもおっしゃっていましたが、会社で失敗を減点方式で行っていると難しいのかなと思います。何か新しいことをやって、失敗したけれども新しいフィードバックを得られた。こういった行動が評価される方式にすべきではないかなと思います。

失敗の事例として、”社会を発展させた”三大事故があります。

アメリカのシアトルで1940年、想定外の横風で橋が壊れました。共振という概念がなかったので崩落してしまいました。また1953年、相次いで墜落したコメット機ですが、こちらは金属疲労という知識がなかったため墜落事故を発生させてしまいました。最後にリバティ船というアメリカが作った船は、作った4000艦のうち2000艦が使い物にならなかった。使った鋼が低温に弱いということが分かっていないまま開発してしまったからです。

何を言いたいかというと、このような失敗があってこそ、今われわれが使っている安心安全の橋や飛行機、船が存在します。失敗というのは、今のわれわれが享受できていることの前提となっているもので、とても大切なものだと考えています。

私のバイブルにしている本で『失敗の本質』という本があります。こちら第二次大戦中の日本軍の組織論的研究、失敗がどうして起こってしまったのかという研究になっています。例えば上官が突っ走ってしまい失敗したとか、上官と下官のコミュニケーションがうまくいっていかず失敗したとか、失敗に関する本質が詰まっているので、今でも組織の中で活きるものがたくさんあると思っています。ご関心ある方いらっしゃればご覧いただければと思います。

また失敗に関して、「マージナルゲインの法則」というものがあります。

例えばアフリカの子供たちの学力向上のために取られた施策はどのようなものでしょうか。

まず「教科書がないから学ばないのでは?」という仮説のもと、教科書を子どもたちに配布しましたが、効果がありませんでした。次に、「文字が読めないのでは?」という仮説のもと、視覚教材を配布しましたが効果がありませんでした。そして次に各家庭に虫を駆除する薬を配ったところ、学力向上が見られたそうです。どのようなことかというと、寄生虫が子どもたちの健康を脅かしていて無気力にさせていたんですね。そこで駆虫薬を配ることで学習意欲を向上させて、学校への出席率を高め、学力向上につなげています。このように表層的な失敗の原因を見ていては何も意味がなく、そのエッセンス、インサイトはどこにあるのかまで見ないと意味がないという話です。

私は学芸大学でアントレプレナーシップ論を教えているんですが、なぜ日本に起業家が少ないのかということをよく聞かれます。フォードという会社がありますが、実はフォードは三度目の起業で大成功しました。

起業家が少ないのと失敗に対する恐れには相関があると思われます。日本は失敗に対する恐れがすごく大きい。そのため、日本においては、社員が挑戦してみたいと思う環境を作ること、そして挑戦することで失敗したとしても許容できる、次に生かせる環境を作ることが組織として非常に重要だと思います。

さて、挑戦の話をすると「質ですか?」「量ですか?」と聞かれます。

この質問に答えるために『Art&Fear』という本を参考にしたいと思います。ここには陶芸クラスの実験が書かれています。作品を量で評価すると言われたグループと作品を質で評価すると言われたグループに分けて、どちらのグループから最も質のよいものが出てきたかという実験です。そして正解は、作品を量で評価すると伝えたグループでした。

というのも、作品を質で評価すると言われたグループからは、そもそも作品の数が出てきませんでした。彼らは頭の中でシミュレーションして、「どれがよい作品なんだろう」「どれが最高の作品なんだろう」と考えるばかりで、手を動かさなかった。

一方で量で評価すると言われたグループは、いきなり手を動かし始め、試行錯誤しながらたくさんの作品を作りました。

量から質が生まれることがあっても、質から質が生まれることは本当に数少ないまれな例かなと思っています。やはり、価値を生み出すには、量をこなすことが重要ということですね。

さて、ここからは、自分の価値を高める5つのステップということで個人向けの話をしていきたいと思います。何故個人向けの話をするかというと、企業で例えば研修のコンテンツを作るという話になると、コンテンツを作り終わったときにそのコンテンツの内容が古いことがあります。社会のスピードや変化が早いからです。ですので会社の研修は研修でいいと思いますが、それとは別に個人で磨いてもらわないといけない部分はたくさんあると思っています。

またこれは個人にとってもよい事です。人生100年時代、健康寿命が70歳まで伸びると言われています。一方で企業の平均寿命は22、23年と言われていて、ここにはかなりの乖離があります。つまり一人の人が1社で終身雇用で仕事をすることがほとんどできなくなり、ほとんどの人がいくつかのプロジェクトを回していくという形になるので、自分の価値を高めることが非常に重要になり、それは組織にとってもよいことだと思います。今私は約20のプロジェクトを兼務していますがそれは、リクルートにとってもよい影響があると思っています。

ここからは自分の価値を高める5つのステップを説明していきたいと思います。

Step 1:自分を棚卸しする

ほとんどの人が棚卸しができていないと言われています。ある出版社から社会人の学びに関する本の執筆依頼があったときに「実は日本の社会人は『自分が何を好きなのか分かってない』のでまずその部分を書いてください」と言われました。

まずは自分が何を好きかを腹落ちさせることが大事です。分かっていない人が多いので、まずそこをやるべきかなと思います。私の場合、つい最近モータスポーツでA級ライセンスを取得しましたが、自分が好きだからやっているだけなんです。

何を学んでいけばいいかというものは短期と中長期で分けたほうがいいと思っていて、短期な学びでは簿記やTOEICテストなどの会社や仕事で必要なものをやればよいと思います。しかし中長期で学ぶものは自分が好きなものを学べばよいと思っています。

全体が100あるとすれば80%がAIに取って代わられるのか、20%が取って代わられるのか。100%取って代わられるのは実は全体の5%程度の仕事しかなく、後の95%はこの4象限のうちのどこかに入ってきます。ゆえに自分の仕事がどれくらいAIに取って代わられてしまうのかという分析が必要だと思っています。

また自分の仕事がどのようなときにポジティブな感情を抱き、どのようなときにネガティブな感情を抱いたのか認識しておくと良いと思います。自分が何をしているときが楽しいのか、それは「好き」なのかもしれないし、「得意」なのかもしれませんが整理してみるとよいと思います。客観的な指標としてエニアグラム性格診断というものがありますし、ストレングスファインダーという本で自分の資質を明らかにすることができます。

Step 2:人材における自分のポジションを確認する

こちらの”起承転結”人材モデルは、オムロンの竹林さんという方が提唱しているものです。ある一つのプロジェクトを成功させるためには起承転結4つの人材が必要ということが示されています。起承転結4つの人材が集まって初めてプロジェクトが成功するということです。

起というのは0から1を仕掛ける人材、結というのはきっちりオペレーションする人材ですね。起の人は10年とか20年先のことを常に考えています。結の人はすごくきっちりしているので直近のことを考えています。何かプロジェクトを始めるときにこれらの人材が揃っているかどうかを確かめる必要があるのではないかと思います。

Step 3:オンラインで学ぶ

最近だと何でも学ぶことができますね。スタディサプリも多くの社会人の方に使っていただいていますし、Netflixを使って工学の勉強もできますし、Courseraというところでは例えばYale大学のThe Science of Well-Beingなど非常に質の高い授業を提供しています。

このように学ぶ機会はたくさんあると思っています。

Step 4:足で稼ぐ

『アイデアの作り方』という本では、アイデアは既存の要素の新しい組み合わせだと言っています。しかしこれほどまでにインターネットが発達し、かつ情報が網羅されていると、インターネット上で全部済ませようとする人が多いんですね。そのような方がたくさんいらっしゃると、アウトプットがコモディティ化しやすくなります。なのでどこで差がつくかというと、五感を使った体験、リアルなアナログな体験をどれだけしているか、またそれをどのように組み合わせているかというところで差別化が図れます。

「緊急事態宣言だから動き回れないじゃないか」という方もいらっしゃると思いますが、スタンフォード大の先生が提唱している”弱いつながりの強さ”という概念をご紹介いたします。

強いつながりというのは家族や同僚などを指し、弱いつながりというのは今日のような一回限りの一期一会のイベントや、ネット上の集まりなどを指しています。ここでは、そういった弱いつながりから仕事のチャンスや人との出会いのチャンスが8割もたらされるということを言っています。今は外に出られない、自由に動けないという方がいらっしゃれば、このような理論を入れてみるというのもよいとと思います。

Step 5:発信する

今インフルエンサーでなくとも誰もが発信できますよね。発信すると、「この人はこんなことに興味あるんだ」ということが認知され、さまざまな情報が入ってきます。また自分自身が知らない「好き」や「特技」を知るという意味でも有効です。

このStep1からStep5をやってみると一人一人の価値が上がってきて、組織自体も底上げされ、上の段階に行けると思っています。

最後に江副さんというリクルートの創業者が日頃から言っていた言葉で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というものがあるんですが、自分で機会を創り出すというのはデジタル社会の中では非常に重要になってきます。ですので、一人一人がこのようなことを行っていくと、会社の価値にもつながっていくのではないかと思っております。

パネルディスカッション

―――リクルートはDX、変革をどのように進められているんでしょうか

米田:今回DXの組織要件と人材育成という話ですが、リクルートさんが変革そのものをどのように進められているのかというところも非常に参考になると思いますので、その部分をご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

小宮山:まずリクルートのDXですが、2000年には社員一人一人に携帯、PCが配られたと聞いておりまして、ハード面の整備はかなり早く完了していたという理解をしています。もともとリクルートは東大新聞に広告を出稿するところから始まっており、そのような”文系企業”から、データを活用するような”理系企業”にガラッと変わったので、急速に変革した感覚がありますね。このようにかなり早い段階で社員へのハード面での整備をやっていたのですが、データを使って何か価値を生み出すという文化はそこから変わらずずっと持っています。

また会社として長く働いたほどよいという文化はなく、短く働いて最大の成果を生むという文化になっています。短く働いた分、余暇の時間を使って自己研鑽をしたり社会に還元できるようなことをしたりすることがウェルビーイングにつながるんじゃないかという考え方をしていますね。長く働くと、もう逆に評価されないですね(笑)年間でこの時間以上になりそうとなるとアラートが飛んできます。なので残業があまり良しとされない、それよりも効率的に働けばよいという考え方ですね。

米田:頭では分かっていても実践できていない企業が大多数だと思うので、すごいですね(笑)

小宮山:あと特徴的なものとしては、Ringという新規事業の提案会を行っています。スタディサプリやゼクシィもRingから生まれてきていますね。毎年1,000件くらい起案があるんですが、デジタルをベースとした起案が多いです。

Ringがうまくいっている要因の一つとしては、Ringの運営組織をデジマ組織にせず、かなり横ぐしの通った組織にしているというのがあるかなと思います。デジマ組織にすると、さまざまな部署からメンバーを集めるものの、結局そこの島でしか話し合いが行われないという形になり孤立化しやすいんですよね。複数の部署と横につながっているというのがよいと思っています。

あとは講演会が多いですね。新規事業提案会に社員の方から提案してもらうために、SUUMOやカーセンサーなどのOBや専門家を呼んで講演してもらっています。ここ数年はそのようなRingへの参加意欲を喚起するような施策は多く行われていますね

米田:われわれもDXに成功した企業の方とコミュニケーションを取る機会がありますが、社員をモチベートするというか、組織風土をよくしていくのは大事ですよね。

小宮山:そうですね。また、リクルートでも、全ての人材が起の人材ではないんですね。他の企業さんと比べると起の人材が多いものの、承転結それぞれの人材もいて、そのような方々にどうやって興味を持ってもらうかという部分は重要ですね。

米田:ホールディングスの出木場さんの2020年4Qの決算説明であった「AIや機械学習をフル活用することで、例えば、『仕事に就きたい人が1秒で転職できる』または『1回ボタンを押すだけで、新しい仕事に就ける』というくらいに簡単に仕事探しができるように、引き続き努力していきたい」という言葉に見られるように、日本の求人の中だとあり得ないレベル感のトランスフォーメーションを目指していると思っています。こちらはトップダウンでビジョンがあってそこに向かって動いていくのか、それとも、組織内でこのように変えていくべきじゃないかという議論が起こって最終的に経営判断されるのかでいくと、どちらになるんでしょうか。

小宮山:トップダウンもあるしボトムアップもあるという認識ですね。ただ、すごく丁寧にトップが発信し続けています。毎日メールが全社員に飛んできたりとか、トップだけではなく周りの役員の方々が日頃思っていることをメールや動画、インフォグラフィックなどで発信していますね。ほぼ毎朝来ます(笑)

米田:すごいですね(笑)

小宮山:なのでそのすり合わせですよね。日頃現場の方々が考えていることと、トップの方々が考えていることがずれている場合、トップの方たちの話のどこがずれているのかや、社員一人一人が考えるような仕掛けは行っていると思いますね。

米田:そうですよね。トップの方のコミュニケーションは極めて重要だと理解しています。

小宮山:あと、初めにも言いましたがデジタイゼーションとデジタライゼーションのどちらをやりたいのかがはっきりしていない企業さんも多い気がしていて、例えば教育でも「PCを配ってはい終了!」というのはあくまで部分最適ですよね。構造全体をどう変えていくのかというところまで考えてのDXだと思います。よって経営者の方がどちらを行うのかをわかっていないと、社員の方は路頭に迷うと思っています。

米田:そうですね、例えば金融機関はアーキテクチャの部分まで含めて本当の意味でのDXを進めている印象ですが、多くの企業さんだとコアなアーキテクチャまで変えてオペレーションまで、というのはできていない印象がありますね。

小宮山:例えばリモートワークにしますとした場合、人事評価に変化が加わるのだろうかとか、採用にどう加わるのだろうかとか、そこまで考えてのリモートワークだと思います。会社に来ない施策の一つとしてのリモートワークを考えるだけでは、DXではないかなと思いますね。前後があって初めてのリモートワークだと思います。

米田:一つの変化に閉じてしまうと本当にただの部分最適なので、連関してもう一段レベルアップしていくところまで見据えないといけないですね。

―――DX時代、どんなことを人事の組織として変革していくべきでしょうか

小宮山:例えば、リクルートはHRの事業や研究所を持っていますが、昨年面白い調査結果がありました。「リモートワークになり上司の方が一番困ったことなんですか」というアンケートをとったところ、一番の理由が「社員が仕事しているか分からない」という回答と並んで、「社員が自律的に働けていない」という結果でした。例えば今までは朝9時出社して17時に退社するというようにスケジュールが決まっていたので、社員が自分で一日のスケジュールを組まなくても良かったんですよね。それがリモートワークになって、自分で一日が組めず、自律的に働けていない社員が多く出てきてしまった、という調査結果がありました。組織としてきちんと成果を上げてもらうためにはどうすればよいのかは考えなければいけないポイントだと思います。

また、リモートになると対面のコミュニケーションがなくなるため、社員のモチベーションをどう維持するか、という話もありました。それに対しては、上司との10分~15分のMTGを頻繁に入れると回答されていた企業さんもいらっしゃいました。

米田:なるほど、参考になります。僕もユナイテッドで人事制度の変革を担当していたんですが、人事制度って一人一人の従業員に向き合うことと、経営戦略上どんな風に接続されるかという、2つの違うことが求められるものだと思います。

従業員一人一人に向き合うと多分モチベーションみたいな話が出てきますし、経営戦略上の接続の話だと場合によっては信賞必罰が求められるのではないかという話が出てくると思います。そこのかじ取りが求められる動きは今後も強まっていくのではないかと思っています。特に経営戦略というものがデジタルによって大きな影響を受けてしまう以上、一人一人との向き合い方が変わることはもちろん、これまでの習慣から逃れてトランスフォームしていくということは、クリエイティブに考えないといけないと思います。

小宮山:そう思います。リクルートは、4月1日にリクルートマーケティングパートナーズとかリクルートライフスタイルなどの事業会社を吸収合併しました。というのも、私みたいな「よくわからない、けど動いてる」みたいな人材がいるわけですよね(笑)それらの人材を個社で閉じてしまうと、他事業とのシナジーや化学反応の可能性をつぶしてしまうことになり、それはもったいないということで一つにまとまりました。

そしてリクルートは今、各事業ごとに研究所があるんですが、初めて研究所所長が集まるMTGというのを昨年の秋から開催し始めました。そこで初めて横の動きが分かったので、シナジーがこれから出てくると思います。

米田:関連するお話で、僕は弊社の中でもコンサルティングの部門を担当しているのですが、さまざまな会社とディスカッションする中で、平たくいうとナレッジシェア的なものが有効だなと思っています。というのも、これからプロジェクト型の仕事をする機会が極めて多くなってくると思うんですよね。社内の人はもちろん、社外の人もフリーランスや業務委託という形でプロジェクトにアサインされるようになってくる。そうなってくると、何にアサインするのか、どのようにワークを評価するのか、どのようなツールで横のナレッジを連携していくのかなど、プロジェクト型が増えてくるからこそ、変わらなければならない部分もあると思っています。ユナイテッドでもナレッジシェアツールみたいなものを自社開発しましたが、人事のある種ナレッジセンター的な役割を果たすのかもしれないですね。

小宮山:リクルートの中でもナレッジ共有会というのがあります。他の事業が行っていることも共有いただいたりしていますね。

またRingは、社外のメンバーを入れて提案することができます。そこで新しいつながり、新しい視点ができて、新規事業に活かしていくことができるのではないかと思っています。外部人材とつながることが極めて重要だと思っていて、教育は特にこれまでできていませんでした。ようやく最近はGIGAスクールをはじめとしたDXが加速していると思います。ただこの動きを一瞬吹いた風というので終わらせてはいけないとは思いますね。

米田:私たちの会社でも教育機関のDX支援を行っているプロジェクトがありまして、その大学さんは外部のテクノロジーに長けた方を教授として招聘されていて、何をそもそもするべきなのかというところでわれわれを使っていただいている状態です。ここでも同じような話があり、あくまでもDXというのは一時点の話ではなく継続的にどれだけ進化させていくべきかという話なので、そのプロジェクトでもこれまで経験がなかった方も入っていただきながら、われわれと一緒に検討を進めていく中で学んでいくというモデルになっていますね。

小宮山:最後に一つご紹介したいのが、失敗の話ですね。失敗情報はローカル化しやすいんです。

例えば企画部で起こった失敗は、企画部から出ません。かつ、平社員で起こったことはその上司までしかいかない。逆に上で起こったことは平社員までいかないことが多いです。ゆえに、知識化というのが重要だと思います。

DX化を進めるにあたって、何か失敗が起きたときに、知識を共有するような作業を行っておくと、前に進めると思います。これができていない企業かなり多いと思います。

米田:そうですね。失敗を共通の知識にし、失敗をポジティブに捉えていく組織が極めて大事なのかなと思っております。本日は分かりやすくお話いただきありがとうございました。