UNITED DX UNITED

≪小売業の変革を目指す≫
FABRIC TOKYO流 D2Cの心得

ウェビナー報告

ユナイテッド株式会社が主催したウェビナー「≪小売業の変革を目指す≫ FABRIC TOKYO流 D2Cの心得」のレポートをお届けします。ゲストには、株式会社FABRIC TOKYOからCFO 三嶋憲一郎氏、サービスデザイナー 峯村昇吾氏をお迎えし、当社からは執行役員 事業戦略担当 米田吉宏が登壇しました。

リテール・デジタルトランスフォーメーションとは

米田:まず三嶋様より、FABRIC TOKYOのサービス内容とリテール・デジタルトランスフォーメーションについて、お話を伺います。

三嶋:FABRIC TOKYOでは、オーダーメイドスーツやビジネスウェアをオンライン上で購入できるサービスを提供しています。ブランドコンセプトを「Fit Your Life」と掲げ、一人ひとりの体形やライフスタイルにフィットするビジネスウエアを購入することができます。

オーダーメイドと聞くと敷居が高そうなイメージを持たれがちですが、こちらを払拭すべく、インターネットの力で、いつでも気軽に購入できるようなサービスを提供しています。

本日は私が執筆した書籍『リテール・デジタルトランスフォーメーション ~D2C戦略が小売を変革する~』より、当社のD2CビジネスモデルがリテールのDXの手段の一つとして有効なのではないかという点について、お話したいと思います。

<株式会社FABRIC TOKYO 取締役執行役員CFO 三嶋憲一郎> 
国内最大手会計事務所にて、金融機関の米国会計基準による監査に従事し、与信系・市場系・資金調達の監査を担当。2012年よりエネルギー関連企業にジョインし、経営企画、戦略立案、海外事業立ち上げ、M&A、ファイナンスに従事し株式市場上場を経験。2015年9月よりFABRIC TOKYOに参画。2016年からは執行役員CFO就任。2017年7月同社経営・財務担当 取締役就任。

コロナ禍において小売業は、EC化率をもっと伸ばす必要があるという意見が増えています。DXするにあたり顧客データを集めて分析しただけでは、課題の発見につながるとは限りません。実際にお客様の生の声を聞いたり、接客することで見つけ出せる課題は多いはずです。人々の価値観や嗜好が多様化している現代では、顧客のニーズも複雑化かつ多様化してきています。この変化にサービスをアップデートできていなかったのがビフォーコロナにおける小売業の実態です。これからは顧客視点で、時代の変化を捉えることが大切だと考えます。書籍の中では、ITに関わるHOW(手段)の話ではなく、WHY(ビジョン)にはじまり、WHO(顧客ニーズ)やWHAT(価値提供)を、サプライチェーン全体で変革をしていくことの必要性をお話しています。

D2Cビジネス戦略の基本

D2Cは店舗やウェブ、SNSで消費者と直接接点ができるため、距離が最も近いブランドだと言われています。ですのでファンを作ることがとても重要です。これからのブランドの在り方は、顧客価値だけではなく社会価値、すなわち社会課題を解決していくことが必要になっていくと考えます。

海外の事例をいくつかご紹介します。アメリカの「Warby Parker」はメガネのD2Cブランドですが、世界人口の約15%がメガネを必要としているにも関わらず手に入れることができないという社会課題に対し、メガネ1つの売上げごとに1つを寄付する社会貢献活動をしています。また「Everlane」というアメリカのアパレルブランドでは、LGBT・人種差別へのアンチテーゼとして、対象商品購入ごとに5ドルを米国自由人権協会に寄付をする活動をしています。これらの成功しているD2Cブランドは、社会課題を解決するということがしっかりとできており、ファン作りができているのではないでしょうか。

D2Cブランドは実店舗を持っていることが多いですが、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズは「Appleの伝えたいことを直接顧客に伝えられる場所があることで、Appleの価値は最大化する」と言っています。顧客接点を作ることにより、記憶に残るブランド作りができますし、オンラインだけで店舗を持つより、オフラインで店舗を持つ方が、顧客獲得コストを削減できたり成長速度が上がるメリットがあります。

今後の新しい取り組みとして、サブスクリプションとD2Cを掛け合わせた「RaaS(Retail as a service)」に取り組みたいと考えています。洋服に関する「保証サービス」や「着こなしサポート」、「クリーニング・保管」などのライフスタイルに溶け込む課題を解決するサービスを開発中です。購入が「ゴール」ではなく、購入後の「利用」に目を向けて、顧客の課題に寄り添っていきたいと思います。

D2Cモデルと従来の小売モデルの差異

峯村:D2Cで1番大事なことは「顧客」だと思っています。直接顧客とつながることができるD2Cは大切な人に寄り添い、その人の成功へと導くために、かけがえのない関係を築き上げる手段です。ですので、D2Cは”愛”であると捉えています。

小売の世界は「モノを多く生産して売る時代」から「顧客体験の時代」に突入しており、良質な経験を提供しないと生き残っていけません。単純に課題を解決する良質な経験を提供するだけではなく、自分自身の存在を変えてくれる”モノコト”こそ価値があると考えています。われわれは顧客をなりたい姿へ後押しすることが重要です。

<株式会社FABRIC TOKYO サービスデザイナー 峯村 昇吾> 
大手繊維専門商社にて、川上全般の原料メーカーと素材開発を行い、アパレルメーカー向けテキスタイルの企画提案営業を担当。3年間の海外駐在を経て、国内外の幅広い素材開発・調達に従事。2013年モリリン㈱入社し、国内外の原料に特化した素材開発に従事。2015年11月にライフスタイルデザイン(現:株式会社FABRIC TOKYO)に参画。素材開発・調達担当ほか、新商品開発等のR&D業務を担当。

FABRIC TOKYOでは「Fit Your Life」というスローガンを掲げています。そこには顧客の価値観にフィットし、顧客の成功体験に導くことができるサービスを提供したいという願いが込められています。

D2Cブランドでは、LTV(Life Time Value)が重要です。顧客がわざわざ選びたい、お金を払ってまでも長く使いたいと思ってもらえる“モノ”こそが「LTV」としてあらわれると思っています。D2Cの良さは顧客との距離の近さなので、企業と顧客の関係性は一方的なものから双方向の関係へと変化していくと思います。これからD2Cが果たす役割として、今は存在しない、未来のあたりまえをつくること、つまり、“新しい意味をつくること”だと思います。

参加者の皆様からのご質問

米田:ではここから、視聴者の方にもご参加いただき、質問をいただければと思います。まずは私、米田から質問させてください。

<ユナイテッド株式会社 執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。

—既存の業績中心の指標から切り替えて、LTVを指標に見ていくことは難しいかと思いますが、成功の秘訣があれば教えてください。

三嶋:まずデータが取れないとLTVを指標に見ていくことは難しいと思います。やはり実店舗だけではお客様のデータを細かく読み取ることができないので、EC化するにあたりデータをしっかり取っていくことは大事だと思います。またモノがあふれている時代なので、「売上を増やす」という発想だけではその事業は伸びないと思いますし、見ていく“もの”をLTVに切り替える覚悟が経営者には必要だと思います。

米田:ありがとうございます。他にもご質問をいただいております。


—オンラインとオフラインで統合的にデータを見る必要があると思いますが、一方でデザインの力も必要だと思います。デザイナーとビジネス職の連携はどれほど社内に浸透していますか。

三嶋:当社ではKPI設定の際もカスタマージャーニーを基に語ることを徹底させています。どこの部署においても同じカスタマージャーニーにKPIを重ねることによって、共通認識を持たせています。

米田:カスタマージャーニーに統一して議論できる環境を作ることは、非常に新しいですね。続いての質問です。


—D2Cが今後の顧客を先導するイメージを持っています。D2C以外の企業が生き残っていくために必要なことがあれば教えてください。

三嶋:そうですね、既存事業を持っている大手小売業の方は、われわれスタートアップと比べて、アセットもケイパビリティも違います。まずビジョンの再興とUX志向を持つことは生き残っていくために必要だと思います。必ずしもD2Cに変える必要はないかと思いますが、B2Bの会社もスモールからD2Cを取り入れて、B2Bに活かすといった考え方も良いと思います。

峯村:D2Cが注目されたのは、会社と顧客の関係性が近いことからだと思います。自身のブランドへの想いがあれば顧客に伝わる時代だと考えます。

米田:そうですね。やはりこれからは、顧客をもう一段理解することができないと生き残っていけないですね。

—D2Cを体現している事例があれば教えていただけますか。

三嶋:われわれの接客事例からですが、採寸する際にその人の身体の特徴を活かせるような接客をするようにしています。その人の強みや弱みを把握して、ファッションを楽しんでもらえるような手助けができるようアドバイスしています。

峯村:他社事例ですが、インスタグラムのDMを使いユーザーのパーソナルな意見を聞きながら、商品を開発している企業もあるようです。D2Cの特徴である、いかにユーザーと近い距離にあるかということが肝になっていて、面白いですよね。ユーザーの本質的な価値を考えると、消費して終わらせるのではなく、継続して創りだしていく考え方になっていかなければいけないと思います。

米田:顧客観点で、顧客をどれだけ理解するかが非常に大切ですね。FABRIC TOKYOは、ユーザーがどうしたら一番嬉しいのかを考え、事業に落とし込むマインドが非常に強いと感じました。

本日は、貴重なお話ありがとうございました。