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≪DX先進国の事例から学ぶ≫
DX発展途上国日本の課題と突破口

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今回のウェビナーは、「≪DX先進国の事例から学ぶ≫ DX発展途上国日本の課題と突破口」をテーマにお届けします。ゲストには、神戸大学大学院 准教授の保田 隆明氏と、ライフネット生命保険の創業者である岩瀬 大輔氏をお迎えし、アメリカと中国のDX事情についてお話を伺いました。パネルディスカッションでは、当社執行役員 米田 吉宏も交え、対談を行いました。


アメリカにおけるDX事情・注目する成功DX事例

アメリカで今何が起きているのか、私の住むシリコンバレーの社会的事例をご紹介します。

コロナ禍の今(2020年12月現在)、近所のドラッグストアではドライブスルーで、新型コロナウイルスの検査を受けることができます。2020年夏前にはこのような状況になり、最近は学校の校庭でも検査ができるようになりました。

<保田 隆明氏>
神戸大学大学院経営学研究科准教授。スタンフォード大学客員研究員。一橋大学経済学研究科客員研究員。19/8-21/3までシリコンバレーに在住し、スタンフォード大学にて、ESG/SDGsを通じた事業変革に向けてのファイナンス戦略について研究。1974年生まれ。リーマン・ブラザーズ証券(東京/ニューヨーク)、UBS証券東京支店で投資銀行業務に携わる。その後、2004年に起業しSNSサイトを立ち上げる。翌年同事業売却後、ベンチャー投資ファンド等を経て、2010年より小樽商科大学准教授、14年より昭和女子大学准教授、2015年9月より神戸大学大学院経営学研究科准教授、21/4より現職。著書に『コーポレートファイナンス 戦略と実践』『地域経営のための「新」ファイナンス』『ふるさと納税の理論と実践』『Crowdfunding -Lessons from Japan’s Approach-』『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』など。上場企業を始め、社外取締役も複数の企業で務める。


新型コロナウイルスの影響で特に困っているのが飲食店です。店内営業ができませんので、屋外の店外営業にシフトしてきています。屋外の営業スペースがなければ車道をつぶし営業スペースを確保して、迅速かつ柔軟に対応しているのがシリコンバレーの特徴です。



学校教育での変化ですが、基本的にすべてオンライン授業に切り替わりましたが、州が定める最低授業時間を上回る時間を確保しています。私の息子(小3)が現地の学校へ通っていますが、オンライン授業でも英語の音声や書き起こしは翻訳アプリを使って不便なくできているようです。体育や図工の授業もオンラインで、家の中で縄跳びをしたり、絵を書いています。オンライン化でタイピングが必要になってくるので、宿題はタイピング練習が出ています。



習い事も感染防止対策のためソーシャルディスタンスが保たれるような、テニス、ゴルフを始めました。

このようにアメリカでは状況に応じて変化することが当たり前で、新しいことをやるというマインドセットが自然にできています。日本からは「シリコンバレーだからできるんでしょ!」という声が聞こえてきそうですが、そもそもDXとは「新しいことをやるというマインドセット」だと私は考えます。

アメリカでは中学校の再開予定(2021年1月~)がありますが、オンラインも交えながら開始させようと模索中です。一部、数学のような個々によって進捗が違ってくる科目はオンラインの方が効率的だという仮説があり、教育環境が変わりつつあります。ただしオンライン化することで平均成績が下がることも懸念されており、対策も講じていくことが必要だと考えます。

日本では「DX=新規事業の開発」と捉えられることが多いですが、そうではなく「既定概念の価値を問い直す」ことや「サービスの本丸を変革させる」マインドセットに変えていくことが必要です。

2020年の株価の変動を見ると、アメリカと、日本以外のアジアはアウトパフォームし、日本は横ばい、欧州はアンダーパフォームしています。なぜアメリカがそのような状況になったか、一つはヒューマンキャピタルへの見直しがあったのではないかと言われていています。

アメリカに「Target」というメガスーパーマーケットがありますが、オンライン対応が課題でした。コロナ禍で店舗を倉庫化しオンライン化することになり、それまで店舗で働いていた従業員がオンライン化の対応を進めた結果、3年後に目指していたオンラインでの売上を今期だけで達成したそうです。日本ではこのような迅速な変化は未対応な部分ではないでしょうか。

事業モデルの変革では、旅行業の「Airbnb」も新型コロナウイルスの影響で危機的状況に追い込まれました。しかし、飛行機を利用しない近距離で利用できる事業にフォーカスしシフトしたところ、危機的状況を脱却し、2020年12月には上場しています。

2020年アメリカでは、起業数(独立数)が急増しています。こちらも新型コロナウイルスの影響です。来店型の飲食店や理髪店、ネイルサロンなどがすべて休業しました。来店できないのであれば出向く派遣型の需要が高まり、独立数が急激に急増しています。このようにアメリカでは、社会の状況が回復するのを待つのではなく、自分が変革しようという動きがあります。

アメリカでのPEST分析で昨今、自転車の利用が増加しているとの分析結果がありました。そのためこれまで使っていなかった自転車を再度利用するために、自転車のメンテナンス事業を始める動きが見られるそうです。

旅行業では「Expedia(先払い)」と「Booking.com(後払い)」という企業がありますが、伸びているのは顧客にとって都合がよい後払い形式の「Booking.com」になります。会社のキャッシュフローを考えるとExpediaのビジネスモデルが適切ですが、Expediaはビジネスモデルのあり方を見直す必要があります。

最後になりますが、なぜDXが必要なのか。それは今、企業活動を通じた社会課題解決が求められているからです。そこで必要なことは「サステナビリティ」と「イノベーション」です。それらをサポートするESG・SDGs経営が推進される中で、何をDXするのかを考える必要があります。



中国におけるDX事情・成功DX事例

中国のDX事例として「平安保険」についてご紹介します。ご存じではない方もいると思いますが、平安保険は世界の保険会社の中でも時価総額ベースが一番大きな会社で20兆円を超えています。2位は私も以前在籍をしていた香港のAIA Groupになりますが、これまでなかなかAIA Groupに勝てなかったのが、平安保険です。

今回は「平安保険」と、平安保険が運営するオンライン医療のプラットフォーム「Ping An Good Doctor」の2社について、お話させていただきます。

<岩瀬 大輔氏>
ライフネット生命保険創業者。代表取締役社長、取締役会長を経て退任。2018年、アジア最大の生命保険である  AIA Group の本社経営会議メンバー兼 Group Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)として招聘される。退任後、香港を拠点にフィンテック・ヘルステック企業の成長支援を行うアドバイザリーファーム Tiger Gate Capital を設立、Managing Partner に就任。ベネッセホールディング、YCP Holdings 社外取締役等も務める。東京大学法学部卒(司法試験合格)、ハーバード経営大学院卒(MBA with High Distinction)



平安保険は1988年に設立された保険会社です。創業当初は自動車保険の販売から始め、その後、生命保険の販売で大きく成長をしています。現在は保険会社の枠を超え、フィンテックのプラットフォームの運営やヘルスケアプラットフォームの運用、ブロックチェーンやデータセットを運営しており、一部中国のスマートシティのインフラを担う会社となりました。

なぜ私が平安保険を紹介しようと思ったかというと、保険会社がどの領域まで手を広げられるのか、示唆に富むからです。

本業の保険販売では、営業マンに効率よく売ってもらうために、保険の申込みから引き受け査定、支払いの引き受け査定まで、デジタルを使いどう効率化していくかがポイントになってきます。DXのどの事例にも言えることですが、一つ一つは決して過大なインパクトがあるわけではありません。ただ、一つ一つをやりきっているというところで、それぞれの施策効率が少しでも上がり積み重なれば、ボトムラインへ大きく影響します。

生命保険会社で大きな労力がかかるのは、営業職員のリクルーティングです。日本でも大手生命保険会社は大変苦労している部分だと思います。平安保険では、リクルーティングのインタビューや面接をAIで行い、営業マンの教育や育成もオンライントレーニングで対応しています。また営業マンが本社へ問い合せをする際のサポートも重要で、「アスクボブ」というQ&Aチャットプラッフォームをつくり、3億4千万回の問い合わせに回答をした実績があります。顧客サービスの面でも、お客様からの問い合わせに対し99%オンラインやAIで解決できています。保険会社ではリスクの引き受けの可否、またそれに対しての値付けをどうするかが本業ですが、そのうちの96%はデジタル対応が可能で、デジタル導入以前は3.8日かかっていた対応が、今では10分以下でできているそうです。

次にフィンテックについてお話します。一番のメインはお金の貸付です。どれだけデジタルのプラットフォームを使って、たくさんのお客様に効率的かつ良い利率で貸すことができるかがポイントです。平安保険は「Lufax」というスモールビジネス向けローンのプラットフォームで、かなり大きな金額の貸付をしており、生命保険会社ではありますが、実は、フィンテックで最大のビジネスができているのです。

さらにもう一つ、ヘルステックビジネスをご紹介します。保険会社の一番の悩みは、お客様との接点が少ないことです。保険に入ってもらうまでは接点が多いのですが、入った後は事故などの保険請求がない限り、こちらからアクションをする機会がなく接点がないのです。ただ昨今は保険に入ってもらった後、いかに継続的な関係を築けるかが課題で、かつ病気にならないためにどのように手助けをするかがトレンドとなっています。その中で平安保険がうまく介入したのが「平安Good Doctor」というオンライン医療のプラットフォームです。

当初は病院の予約サイトから始まったビジネスで、待ち時間の軽減や病院のオペレーション軽減が目的でしたが、オンライン診療を受けられる仕組みを整え、今では1,400人ものお医者様を抱えていているそうです。これまで73万件の相談があり、7億件のコンサル実績があります。「平安Good Doctor」はここ5年程度で大きく伸び、700億円ほどのビジネスになっています。中国の平安の規模からすれば決して大きくありませんが、日本の大企業が新規事業を立ち上げ、5年で一千億近くの売上げまで成長させることはなかなかありませんので、その意味でも今後も成長が期待される事業だと思います。

日本では「ライフネット生命」が、電話でお医者様と相談ができる仕組みを提供したこともありましたが、実際に利用される割合は低い結果となりました。中国と日本の差は何なのか、次のパネルディスカッションでお話できればと思います。

中国のDXの特徴は、オンライン・オフラインの融合です。「平安Good Doctor」はプレミアム会員向けに名医が診察をするサービスがありますが、広告の打ち出し方も日本と違い、医師の画像をメインに打ち出す大胆さがあります。アイディア自体は斬新ではないものの、ここまでやりきれるのかが参考にすべきところです。またオフラインの病院とも提携し、インターネットホスピタルではありますが、実在する病院もあり、オンライン・オフラインが融合しているモデルになります。

薬局ではデリバリーサービスを提供しています。インターネットで薬を処方し、市内だと1時間、郊外では同日中に届く仕組みで、保険の加入、診察から薬の受け取りまで一気通貫で提供しています。こちらもアイディア自体は難しいものではないですが、最後までやりきれていることがポイントです。

中国では「三馬(アリババのジャック・マー、テンセントのポニー・マー、平安保険のマー・ミンジェ)」と呼ばれる起業家たちがおり、平安保険はマー・ミンジェの強烈なリーダーシップがあり、今の平安保険があるといわれています。



パネルディスカッション

アメリカ・中国と比較した日本のDX市場の現在地と課題

米田吉宏(以下、米田):それでは先ほどのお話を踏まえ、ディスカッションを始めたいと思います。

米田:アメリカの事例では、速やかに変革していくことが特に印象的でした。一方中国は、日本でも思いつく事業ではあるものの、きちんとやりきることが強みだという印象を受けました。このあたり日米、日中でどのように違うのか、どのような背景で違いが出てしまっているのか、もう少し詳しく教えてください。

<ユナイテッド株式会社 執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。


保田隆明(以下、保田):私は在米歴3年ではありますが、とくかくアメリカは少しでも前に進みたい、という気持ちが強いと感じます。状況が元に戻るのを待つことはありません。息子の習い事では、ロックダウンされた翌週からオンラインレッスンが始まりました。とにかく止まらずにできることで動きます。そこが一つ大きな違いではないかと考えます。

岩瀬大輔(以下、岩瀬):先ほど中国では“やりきる”ことを強調してお伝えしましたが、一つ一つは過剰に感じるほどではなくても、相対的に見て、デジタル化した方がよい部分について、迅速に対応していることが凄いと感じます。日本は懸念事項を事前に洗い出したり、慎重になりすぎて障害が多いかもしれません。中国はとても合理的なので、トライしてみようという風潮があると思います。ですので金融規制も、一度緩め走らせて、行き過ぎたらブレーキをかける、というような状況です。日本は現状に満足しているような感じも否めず、ドライブ感が感じられませんし、変えなきゃいけない、前に進まなくてはいけない、という気持ちも感じられません。中国の場合は、国全体が“もっと豊かになりたい”、“お金持ちになりたい”という起業家たちの物凄いエネルギーが溢れ出ています。

私が以前在籍していたAIA Groupはアメリカのグループ企業で、報酬が株価に連動しているので、経営者も社員もどう株価を維持するか、上げるかに対して必死で、四半期利益へのドライブが物凄いと感じました。最近は日本でも株価に報酬を連動させる企業もありますが、おまけ程度の比率かと思います。私が在籍していた会社ですと株価に連動する報酬比率が高く、どうマーケットから将来性を期待されるような会社をつくるか、サービスを生み出せるかに対してものすごくドライブがかかります。

あとは国民性でしょうか。例えばエンタープライズ系のビジネスでは、中国の新しいベンチャー企業が日本企業にSaaSの提案をしたとしても、リスク回避のために、名の知れない企業よりも大手企業に委ねることが多いです。それに対しアメリカは、法人もエンタープライズのユーザーも新しいものを取り入れ、それをよしとする風土があるのではないでしょうか。すごくプラクティカルに、良いものがあれば使っていこう、という気風が高いと思います。一方で日本は現状がそれなりにカンファタブルなので変わる必要がない、変わりたいと考えていないところがあるのではないでしょうか。

米田:ありがとうございます。私たちユナイテッドが日本の企業様向けにDXの提案や支援をする中でも、自分たちのやり方を大事にして、それに合うようなサービスを探したり、またそれが信頼に足る企業なのかを精査していることも多く感じています。アメリカでは、さほど重要ではない部分は型化し、シンプルなものに変革をしていくと思うのですが、日本だと自分たちありきになり、慣れたものを重要視するところがあります。そのあたりは中国は非常に合理的で前にドライブをかける、という気質があると思うのですが、新しいものへの抵抗はないのでしょうか。

岩瀬:恐らく中国の先端的事例ばかりが取り上げられるので、そのように見えるかもしれませんが、実はトラディショナルな古臭いビジネスはたくさん残っていると思います。ただ合理的なので、良いものがあったら率先して使う、あるいは経営者のトップの影響が強いと、新しいことを進めていく、という気質があるのではないかと思います。繰り返しますが、徹底的に合理的なのが中国です。

DXの文脈から少し反れますが、中国人が日本の不動産の購入を検討した際、日本人はどれだけ高い金額を提示されても、その地を愛していない人には売りたくないと情のようなものがあるのですが、それを中国人は、なぜお金を出すのに売ってくれないのか、その意味を理解できないんです。ですので日本では、この事例のようにウェットな部分も残っているのだと思います。その反面、中国では摩擦も少なく、既得権の人たちがあまり強くない部分もあるのではないかと思います。

ディスラプティブなイノベーションとは、何かを置き換えることだと考えます。もちろん新しいことを生むのも必要ですが、既存産業では何かに置き換えていくことが必要です。それは何かが無くなることを受け入れることでもあります。

アメリカの事例になりますが、サンフランシスコのタクシー会社は配車アプリの進出により、倒産が相次ぎました。ただしそれをよしとして利便性を受容する。Airbnbが広まると既存の旅行業界に大きな打撃を与えるわけですが、それでも新しいサービスを受け入れる姿勢があります。それに対し日本の文化は、このような状況が許されにくく、小さなイノベーションしか許容されないことも少なからずあるのではないでしょうか。

アメリカと中国で共通しているのは、徹底した自己責任があるということです。例えば日本ではウーバーイーツでは、ちゃんとしていない車に乗ったら危ない、Airbnbで消防法の基準にある設備がないのは危ないから宿泊してはいけない、というのが日本の考え。それに対しアメリカや中国では、使いたいなら使えばよい、という緩い考え方です。極端に言うと、死にさえしなければよい、チャレンジすればよいという考えで、そこが日本とは大きく違うと感じます。

米田:ありがとうございます。保田さん、今のお話でアメリカや中国は摩擦が少ない、ということが挙げられていました。。先ほどアメリカは日々、街中でもさまざまな変化があるとのことでしたが、そこでも摩擦は少ないのでしょうか。

保田:今年(2020年)に限り、アメリカは新型コロナウイルスの影響を大きく受けましたので、昨年までとは少し違います。日本の場合は緩いロックダウンでしたが、アメリカの場合はハードなロックダウンをしたので、倒産するか、生き残るか、という状態に追い込まれました。では倒産しないためにはどうするか、というところでDX化をした経緯があります。日本は緩いロックダウンで済んだのは社会的によかったものの、企業のマインドセットを変えることはできず、中途半端にとどまってしまったと思います。一方、アメリカや中国では、ドラスティックにDXをしたがゆえに差がついてしまった、そこに気付くべきです。

米田:ありがとうございます。非常に大きいトリガーになるか、ならないかで、差が生まれたのですね。

日本企業のあるべき姿と今後の展望

米田:では次に、日本は海外と比較してどのように進めていけばよいのか、ディスカッションをしたいと思います。

私たちユナイテッドがコンサルテーションをする中で、自前主義なところや、DXで省人化が可能となった際にその人たちをどうするのかというような批判的な意見もあり、最終的にドゲのないDXになってしまう。またリーダーシップをCEOではなく、ミドルマネジメントクラスやジュニアの人たちが牽引することが多く、組織間の壁をなかなか打破できずに丸くなってしまう。多くの企業がこのような状況におかれているのではないかと思います。その中で、もう一段効果的なDXの実現に向けたアドバイスをお願いします。

岩瀬:とあるコンサルティング会社の調査で、中国企業のデジタルプロジェクトはアメリカや日本、ヨーロッパと比較して、CEOがオーナーシップを執り行うことが圧倒的に多いことが分かりました。本当の意味で、トップダウンが多いということです。ですので先ほどの米田さんのお話は非常に重要で、やはりトップがきちんと理解してやることが必要だと思います。新しいプロジェクトでありがちなのは、本来優秀な人材をアサインすべきところ、既存事業の関係で人選を間違えてしまうことです。ですので、どのような人材にコミットさせるのかも非常に重要なポイントです。まとめとしては、トップがオーナーシップを執り理解する、一番優秀な人材をアサインし信じることが重要です。

そして短期的に見える成果は多少犠牲にしても長期のために投資をする、ということをリーダーが関係各所へ説明し、説得する必要があります。そうしないと短期の成果ばかりに追われてしまい、失敗に終わります。

例えばAmazon CEOのジェフ・ベゾスは「Amazonは赤字でもずっと継続するんだ」と言い続け、短期と長期のトレードオフをしっかり行ってきました。そうでなければ今のAmazonはないと思います。ですので目先のことだけにとらわれず、お金や時間をきちんと投資することが非常に大切です。

また私の考えではありますが「DX」、「AI」、「ブロックチェーン」などの表現は、社内で使うのを止めるべきです。先に挙げた言葉はいろいろなことを意味していますが、人により解釈が違ったり、本質をついていない言葉です。例えば営業する際に「DX大切ですよね」や企業アピールで「AIやっています」などと、外への売りこみに使うのはよいと思いますが、社内の議論では曖昧なバズワードを一切排除すべきです。例えば“DX”といっても、難しいのは内容の明確な線引きです。私は以前「イノベーション予算」を100億円で立てたことがありましたが、すでに動いているプロジェクトも“イノベーション”だと言い、予算を奪いにくるケースがありました。ですので具体的な施策を明確にして、そこに充てる費用だと言うべきです。バズワードを振りかざすよりも、議論がシャープになり、できること、できないことがクリアになります。

また何でもデジタルで解決しようと、デジタルを過信しすぎないことも大切です。機械ができることは機械に任せ、人が優れている部分はそのままで、オンライン・オフラインをうまくマージさせる。デジタルテクノロジーを特別視することなく、人ができることにもフォーカスすることが必要です。

私は「ベネッセコーポレーション」の社外取締役でもありますが、教育業界も以前‎EdTech(エドテック)ブームがありました。AIを使い、パーソナライズドラーニングで学習効果が上がる仕組みに触れたことがありましたが、私の感覚では、タブレットを配りAIを導入すれば子どもが全員勉強できるようになるか、といったらそうではありません。当時は、赤ペン先生が添削した課題をLINEで親へ送ったり、手書きのメッセージを交換できるようにすることが早いのではないかと提案したこともありました。ハイテクなことをやる必要はなく、既存やオフラインのものをうまく活用しながら、シンプルにしていくのが大切です。

最初から大きなことをやろうとせずに、オフラインでできることは残し、本当に大事なところだけデジタルにすることがDXですべきことだと思います。

米田:ありがとうございます。保田さんもぜひご意見をお聞かせください。

保田:二つあると思います。一つめは社内でディスラプトを進める際に既存の人材をどうするかで、配置転換や教育に尽きます。抵抗はあると思うのですが、やる勇気があるか、ないかが非常に重要です。アメリカの教育現場では、2020年4月以降に手探りで行ったオンライン授業がどのような子どもに適切だったかを、7月からの夏休み期間中に分析しました。オンライン授業の内容をどのように改善すればよいのかをデータ分析し、休み明けに引き続きオンライン授業が必要となったときのために、教員向けにオンライン授業のトレーニングも提供しました。教員からすれば当然やりたくないことなのですが、新型コロナウイルスの感染は収束しなかったので、やらなくてはいけない状況に追い込まれました。ですので、結局「やるか、やらないか」なのです。

もう一つ、アメリカでも「Uber Eats」が伸びていますが、競合の「ドアダッシュ」という企業が上場し、両社の市場シェアが入れ替わりました。なぜそうなったのかというと、ドアダッシュは郊外の市場にフォーカスしたのです。冷静にマーケットを考察し、単純にデジタル化するだけでなく、その中でどの市場にフォーカスをすれば開拓できるか、で成功した事例です。

米田:ありがとうございます。岩瀬さんから「バズワード」についてのお話がありましたが、おっしゃる通りだと思いますし、実際に私たちのプロジェクトでは使いません。

企業様のDXのプロジェクトを始めるにあたり、私たちが支援に入ったときに、そもそも何のためにやるのか、達成目標はどこなのか、そこをどれだけシャープにするのかに尽きると思います。今後、中長期の礎となるような競争優位を磨き込むことなのか、不要な業務を型化して省運用化していくのか、そもそも何を何のためにやるのか、というのが非常に重要だと思います。

またデジタルを過信しすぎないことにも賛同です。企業の中でよくありがちなのは、何でもデジタルを使えば業務効率化につながる、効果の出方がよくなる、などのご意見があります。しかし、個々のオペレーションを変えたり、遠慮せずに指摘し合うことが、改善にインパクトがあるケースもあります。また、営業管理ツールを導入すれば獲得効率がよくなるのではないか、というご質問もよくいただきます。営業会議では事前に徹底して資料を読み込み、論点を詰めたり、本当に顧客課題の解像度が高いのかなどに時間を割いた方が効率的かつ、効果的です。ですのでデジタルの導入については手段が目的化してしまい、本質を見失うケースが非常に多く、過信しすぎないことは重要だと思います。

お二人からの成功事例では、中長期を見据えて何が競争優位を生むのか、という事前のプランニングがアメリカをはじめ、海外の方ができていますね。日本では短期的、かつ中長期のプランニングを意識していない場合が多いと感じますので、何をすれば企業価値が上がるのかをベースにしたプランニングが非常に重要だと思いました。


参加者のみなさまからのご質問

米田:では次に参加している方からのご質問について、ご意見をお聞かせください。

アメリカと中国では、技術者をどのようにリクルーティングしていますか、というご質問です。

私が把握しているところでは、日本ではシステムインテグレーターに外注し、海外では技術者自体が競争優位になりリクルーティングしていると思いますが、いかがでしょうか。

岩瀬:技術者の取り合いは、どこの国でもあることだと思います。ですので大企業や面白い事業ができる企業が、優秀な技術者を抱え込むようになります。私がシリコンバレーでお手伝いをしている企業では、最近はカナダにいる方を雇いトロントにチームを作っています。リモートワーク中心の世の中に変わってきたこともあり、オフショアで探しているのが実態です。優秀な技術者の確保は、どこの会社でも大きな課題になっています。

米田:ありがとうございます。では次の質問です。新しいDXの事例を収集するにあたり、良い媒体やメディアがあれば教えてください。

岩瀬:私は日々、いろいろなニュースやツイッターを追っていますが、よいキュレーションをしてくれている人を追いかけることでしょうか。

保田:英語であれば新聞記事やウェブのメディアを見ているとたくさん出てくるのですが、中国語のメディアの場合は、先ほどの岩瀬さんがおっしゃったように、キュレーションをしている人で、かつ日本語に翻訳して情報発信をしている人を見つける、という方法でしょう。

米田:私からは事例を参考に自社の変革に活かしたい、というタイミングであれば、二次情報ではなく、その方のお話を直接聞ける場に赴くことをおすすめします。二次情報はどうしても美談ばかりに目を向けられてしまいがちで、実現までの泥臭い情報を知り得ないことが多いからです。そのあたりをよく理解しないままでは、決然できるような決断ができないと思うので、可能なかぎり、しっかりと聞くことを意識してもらいたいです。

保田さん、岩瀬さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。