今回のウェビナーは、13カ国に事業を展開し創業5年で年間110億円超の売上を生み出すまでに成長した「AnyMindの快進撃の裏側」をお届けします。ゲストにAnyMind Group株式会社よりCEO 十河 宏輔氏をお迎えし、多くの企業が競り合うデジタルマーケティングの業界でなぜこれほどまでに急拡大できたのか、お話を伺います。当社からは執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏が登壇し、対談をおこないました。
サプライチェーン全体にわたりD2C事業を支援するプラットフォーム
<AnyMind Group株式会社 代表取締役CEO 十河 宏輔氏>
1987年 香川県生まれ。大学卒業後、新卒でインターネット広告関連事業を展開する株式会社マイクロアドに入社。その後、東南アジア6カ国の拠点立ち上げを行う海外事業責任者、取締役を共に最年少で歴任。2016年4月に独立し、AnyMind Group(旧AdAsia Holdings)を創業。D2C支援事業やインフルエンサー関連事業を中心に、創業4年でアジア・中東・インドなど13カ国・地域17拠点で事業を展開する同社の事業成長を牽引。Forbes JAPAN誌「日本の起業家ランキング」TOP20に2020/2021と2年連続での選出をはじめ、アントレプレナーとして国内外で複数の表彰歴を持つ。
【AnyMind Group株式会社】
2016年シンガポールで設立。ミッションは「Make every business borderless~あらゆるビジネスをボーダレスにする~」。国境を越えて誰でもどこでも簡単にビジネスができるような世界を実現させるとし、世界13カ国に拠点を拡大。プロダクト開発の強みを活かし、多角的な事業展開で創業5年で売上は110億円を突破している。
米田吉宏(以下、米田):貴社ではさまざまな事業やサービスを展開されていますが、その中で今、最も注力している事業は何でしょうか。
十河宏輔(以下、十河):直近はD2Cの領域に注力しています。ものづくりから物流まで一貫したサプライチェーンプラットフォームで、各領域に独自のソフトウェアを開発して提供しており、誰でも簡単にものづくりやECをすることができます。最近では中小企業を始め、インフルエンサーやユーチューバーの方にも提供しています。今後は個人がブランド化していく時代になり、ますます需要が伸びていく領域だと考えています。
米田:D2Cに取り組んでいる企業は多いと思うのですが、貴社の特徴は商品をつくることだけではなく、物流まで一貫して支援できることでしょうか。
十河:はい、当社はD2Cブランドの運営者にとって、ビジネスをグロースさせるようなプラットフォームやソフトウェアを提供し支援していることが特徴です。
米田:ありがとうございます。近年は、個人のブランド化にシフトしてきていることがD2Cの大きな変化でしょうか。
十河:当社はインフルエンサーマーケティングの事業からスタートしていますが、インフルエンサーの方のビジネスモデルは広告から、どんどん広がり変化しています。その中のひとつがD2Cの領域です。クリエイターのこだわりや個性をブランド化し、販売、支援するためにD2C支援事業を始めました。
米田:非常にユニークですね。D2Cは全てのビジネスプロセスのデータが統合化されていくと思うのですが、今後はそのようなデータ活用も強化されるのでしょうか。
十河:物販ビジネスは、データをどれだけ活用できるかが重要です。販売データや物流データ、顧客の属性やニーズをしっかり分析し、それぞれの分野を常に最適化しています。
米田:ありがとうございます。ユナイテッドのコンサルティング事業でもD2Cブランドを立ち上げたい企業様とディスカッションをする機会があり、近年はEC、SNSを通してインターネットでの購入が当たり前になっていると感じています。最近では中間流通を通さず、直接販売する企業が増えているようですが、貴社では企業向けの支援もしていますか。
十河:はい、企業様にも提供をしています。個人向け、企業向けどちらにも同じことが言えますが、顧客に商品への想いをどう届けるのか、コミュニケーションを大切にしながらマーケティング活動やサイトの見せ方などに注意して運営しなければならないと考えています。
参加者の皆さまからのご質問

<ユナイテッド株式会社 執行役員 事業戦略担当 米田 吉宏>
慶應義塾大学経済学部卒業後、 2010年株式会社電通入社。2013年ボストン コンサルティング グループ入社後、主に通信・メディア・テクノロジー領域の経営戦略策定、新規事業開発、営業戦略、組織戦略等を担当。プロジェクトリーダーとして従事した後、2019年3月ユナイテッド株式会社執行役員に就任(現任)。DXソリューションの立案/推進と、全社戦略/組織強化を担当。
米田:ありがとうございます。では次は、参加者の方からの質問も交えて伺いたいと思います。
クリエイター支援に関して今後の展開予定を、可能な範囲でお聞かせください。
十河:今後は個人がエンパワーメントする時代と言われています。海外では個人がブランド化し販売するビジネスは当たり前になってきているものの、日本ではまだまだ広告モデルが主流で、個人のブランド化や物販は、今後広まりを見せてくると思います。クリエイターエコノミーの中で物販はひとつの手法だと考えており、それらを支援する幅広い事業に対応できるよう、既に準備を始めています。
米田:今後、公開できるようになりましたらぜひお聞かせください。では次の質問です。インフルエンサーのブランド立ち上げが非常に多くなってきていますが、ブランドの成長性はインフルエンサー自身の力量によるのでしょうか。
十河:初速はつくれても継続が難しいケースは実際にあります。継続的に成長するためには、まずフォロワーの方に支持される良い商品をつくっていくことが重要です。そしてその方たちを大切にしながら、それ以外のユーザーにも刺さるようなプロダクト設計が必要ですし、クオリティやサービスを強化していく必要があります。クリエイター側は品質はもちろん、ブランドやつくりたい物への価値をしっかり深掘る必要があります。
米田:ありがとうございます。では次に私、米田からの質問ですが、中国と日本でD2Cの違いがあれば教えてください。私の主観では中国には日本とは比べ物にならない数のインフルエンサーとフォロワーがいて、個人の投稿だけで爆発的な売上げになる印象があります。人数以外に、中国と日本、または他の国でD2Cの差はあるのでしょうか。
十河:はい、二つあります。ひとつは「生産」です。中国は、世界の多くの企業が中国に生産拠点を多く置いているだけあり、生産に関して非常に強い国です。ふたつめは「ライブコマース」ですが、日本と比べると海外はライブコマース市場が大きいです。TikTokは、SNSとライブコマースをセットでシームレスに融合できているところが強みです。最近は日本でもインスタライブを使いながらインフルエンサーが商品や試着風景を紹介をするようになり、SNSの活用が活発になってきましたが、中国ほどシームレスではなく、ライブコマースの市場規模もまだまだ小さいです。逆手にとると、日本ではまだまだ伸びしろのある領域になります。
米田:ありがとうございます。では次に「スマート工場」についてお聞かせください。中国では企業ではなく個人が販売する場合でもスマート工場を活用されているのでしょうか。
十河:はい、個人の方も活用しています。中国のスマート工場は生産スピードと、プロダクトをつくるサイクルがとても早いです。技術のアップデートのスピードは、他と一線を画しています。このサプライチェーンを活用しない手はないと思います。当社も少し似た概念のサービスとしてクラウドでものづくりができるプラットフォームを提供していて、どんな商品をつくりたいかなどをヒアリングした上で、クラウド上でものづくりが完結できるようなサービスの提供を行っています。
米田:ありがとうございます。では次は参加者の方からの質問になります。貴社のサービスは領域ごとに提供されているサービスだと思いますが、一気通貫ではなくサービスは分けた方が良いのか、またその中でも需要が伸びていくサービスがあれば、教えてください。
十河:クリエイターの方には、ブランドや商品の企画・生産・物流まで一気通貫でご利用いただくことが多いです。一方で企業側は、ピンポイントで困っている領域があることもあるので、その場合はマーケティングやEC立ち上げ・運営などの一部の機能をそれぞれ提供する場合もあります。基本的に全ての領域で需要があると感じていますが、特に生産に関してニーズが高いです。またインフルエンサーマーケティングは、コロナウイルスの影響もあり、日本に限らず東南アジアやインドなど海外でも市場が伸びており、今後も引き続き需要は高まると考えています。そしてEC、物流も継続して伸びる事業になると思います。
米田:ありがとうございます。では次の質問です。アメリカのD2Cのプロモーションは、顧客対話、世界観構築を重要視していると思います。一方東南アジアではD2Cが巨額のマーケット投資をして、顧客の購買行動を喚起するような手法もおこなっていると思いますが、それは有効だと思われますか。またプロモーションのやり方、効果の良し悪しに差異があれば教えてください。
十河:インフルエンサー、企業、どちらのブランドにも共通して言えるのは、SNSの盛り上がりが非常に重要で、UGCがどれだけ増えているのかは念頭に置いておきたいポイントです。アメリカと東南アジアの違いですが、東南アジアはD2C直販サイトで成功している例は少ないため、マーケットプレイスでビジネスをするケースが多いです。その理由として、クレジットカード以外の決済手段を選択する顧客がまだ多く、マーケットプレイスを活用したほうが直販よりも売り上げが高いためです。もうひとつ、東南アジアでの広告単価はアメリカよりも低く、CPAを安価に抑えられるメリットがあります。しかしLTVが少ないため、そのバランスをどうとり、成長させていくかを考える必要があります。
米田:ありがとうございます。先ほどのお話でマーケットプレイス、直販のどちらで拡販していくのか、企業にとって重要な意思決定になると思いますが、決め手はありますか?
十河:国によって決済手段の浸透に課題があり、直販よりマーケットプレイスのほうが顧客にとって利用しやすい、という判断になることがあります。いずれにせよ、直販、マーケットプレイス、どちらもきちんと顧客と向き合うことが重要です。特に顧客とのコミュニケーションはマーケットプレイスに依存はできないので、独自に施策を考え、手を打つことが必要になってきます。
スピーディーな起業
米田:ありがとうございました。では次に、事業の立ち上げに関してお聞きしていきたいと思います。貴社ではさまざまなサービスやツールを提供されていますが、事業立ち上げからどのように成長させてきたかを教えてください。
十河:事業を立ち上げる際、どの市場に参入するかを重要視しました。私はシンガポールで起業したのですが、最初からグローバルに勝負をしたかった。その理由は東南アジアのマーケットが大きいということでした。本気でグローバル勝負をするために、どこでも通用するビジネスモデルとプロダクトをつくることは非常に重要だと思っていました。私自身、マーケティングのバックグラウンドがあったので、マーケティングの事業からスタートさせ、事業を拡大していきました。今でも新規事業に着手するスピードは早く、実行の判断になれば翌週からスタッフをアサインし開始することも少なくありません。
米田:ありがとうございます。ではマーケットは将来的にどう変化するか、どの領域が成長すると見越してビジネスモデルを構築してきたのか、教えてください。
十河:まずビジネスモデルを構築する際、世界中の競合やベンチマークする会社を洗い出します。中でも将来性が高いと注目した企業は、アメリカと中国の企業が多かったです。どのように成功させているのか、サービスやプロダクトが顧客や企業、クライアントに対してどう刺さっているのかを分析し、それを軸に自分たちはアジアでローカライズしたものを提供する、という王道な手法で始めました。
米田:D2Cの領域では、やはりアメリカや中国が先行事例として進んでいるのでしょうか。
十河:アジアでは中国以外にインターネットの領域で流行っている良いサービスはあまり見受けられないので、やはりベンチマークとなるとアメリカ、中国の企業になります。
米田:具体的にベンチマーク先を教えていただくことはできますか。
十河:最近ベンチマークをしている企業は、THRASIO(スラシオ)です。D2Cブランドやフルフィルメント By Amazonに出品している会社をM&Aで買収し、成長させている企業なのですが、創業2年で1,000億円以上の評価額があり、世の中で一番早くユニコーンになった会社と言われています。
海外展開を成功させるコツ
米田:ありがとうございます。次に貴社は海外複数国で事業を展開されていますが、成功させる秘訣はありますか。
十河:はい、プロダクトや基本的なビジネスモデルをグローバル統一をすることです。そうすることで、工数を削減できスムーズな事業展開ができます。一方セールスマーケティングには、アジア諸国で言語やカルチャーが多岐にわたるため、ローカライズすることが必要ですし、有効です。このバランスが非常に重要で、海外で事業を成功させる秘訣になります。
米田:確かにツールをローカライズさせることにより相当なコストや工数がかかりますね。とはいえ、提供されているツールがプロダクト共通でも、部分的にカスタマイズできようにすることは現地の方から要望としてあると思うのですが、貴社なりのグローバルスタンダードのつくり方はありますか。
十河:はい、プロダクトに関する意思決定はグローバルチームでおこないますが、現地メンバーにもヒアリングを十分におこない、コミュニケーションを取るよう心掛けています。全てを聞き対応することはできませんが、ヒアリングした中できちんと優先順位を考え決定したことを伝えています。
米田:グローバルチームの中で優先順位が高いのは、各国で共通性が高いものになりますか。
十河:共通性もそうですし、インパクトがあるか、も重要視しています。
米田:ありがとうございます。また海外展開する場合、人材確保も難しいかと思いますが、どのようにされていますか。
十河:グローバル展開をするということは、各国に優秀な経営チームが必要ですし、集めなくてはいけません。現地の社長(カントリーマネージャー)の採用はとても重要だと考えていて、M&A戦略で比較的良い人材を確保できています。同業でプロダクトが多少弱くても、経営能力の高い人材のいる企業が東南アジアやインドに存在しており、その会社をM&Aし自社のプロダクトを提供することで成長させることができます。経営者自身は能力があって事業をグロースさせてきたので、その能力を当社で活かしてもらうために経営メンバーに入れています。
米田:ありがとうございます。今後はどのようにガバナンスしていくのか、構図はありますか。
十河:グローバル展開をするうえで管理体制はとても重要でしたので、立ち上げ当初から投資をして強いチームづくりをしています。会計にはBIG4出身者を入れ、大手の監査法人にも入ってもらっています。コーポレート側の各国のマネージャーには、グローバル共通チームに報告やレポートをしてもらうような体制づくりもしており、引き続き注力していきます。
米田:ありがとうございます。次は参加者からの質問になります。成長を望んで進出したもののうまくいかなかった場合の撤退基準や運用方法があれば教えてください。
十河:実際に撤退した事例はないですが、基準として国によって投資する金額は決めており、その範囲内で運用することを決めています。拠点によっては、時にキャッシュアウトのリスクが発生することもあります。その時はカントリーマネージャーがグローバル経営チームにプレゼンをし、本社からの貸付をおこなうか、ジャッジをすることになっています。しかし幸いなことに、各国、各事業ともに撤退せずに今までこれていますので、引き続きしっかり伸ばしていければと思います。
米田:分かりました、ありがとうございます。では次に今回のテーマでもある「DX」に関して、貴社ではアナログな部分を新しい仕組みでディスラプトする取り組みをしていると思うのですが、レガシー産業にどのようなアプローチをするか、意識していることがあれば教えてください。
十河:そのあたりは、多少時間がかかるという感覚があります。先方からすれば新しい手法は懸念や警戒もあると思いますので、まずはスモールスタートで、しっかり成果を出すことを意識しています。
米田:そうですよね、ディスラプトすること自体が目的ではなく、結果を残すことが大切ですね。
米田:次に参加者の方からの質問になりますが、新規事業の立ち上げは、市場選定からMVP(Minimum Viable Product)開発まで、どれくらいの期間を要していますか。
十河:5年間で8プロダクトを立ち上げたので、とても早い方だと思います。優先順位のジャッジは迅速かつ柔軟に対応を進めています。立ち上げたい新規事業が社内で許可されれば、翌週には動き始めることもあります。世界中どこかを見れば同じようなことを考えている人はいて動き始めている、または伸びている会社が存在していますので、マーケット選定は先例としてあるので大きく外れることはありません。ですので立ち上げのスピードはとても重要ですね。
米田:ありがとうございます。ちなみにエンジニアの組織はどのようになっているのでしょうか。
十河:当社のエンジニアは非常にグローバルで、15カ国を超える国籍の人材が集まっていて、日本、インド、東ヨーロッパ、ベトナム、台湾の方が特に多いです。拠点は東京、バンコク、ホーチミン、バンガロール、ムンバイから成っています。中でも東ヨーロッパでは技術力の高い人材も多いですし、真面目に働いてくれるため、マネジメントコストもかかりません。トップ層はアメリカのシリコンバレーから採用もしています。
米田:本当にグローバルですね。開発案件で、クロススタッフィングはあるのですか。
十河:もちろん他拠点間で開発案件にアサインすることはあります。本来は同じ拠点に集まっていた方がやりやすいかもしれないですが、コロナ禍の影響などもあり、ミックスとなっています。
米田:本当にグローバルでユニークな会社だと思いました。本日は新しくプロダクトをつくる過程がよく理解できました。貴重なお話、ありがとうございました。